現地時間6月21日(金)、WBO世界フェザー級の新チャンピオン、ラファエル・エスピノサ(メキシコ)が米ネバダ州ラスベガスのフォンテンブローにて、セルヒオ・チャリーノ・サンチェス(メキシコ)を相手に初防衛戦を行う。もしこの試合に勝てば、超ハードスケジュールをこなしてきたメキシコ人王者に、『井上尚弥争奪戦』に加わるチャンスが巡ってくるかもしれない。
このエスピノサの防衛戦は、日本国内での生中継・配信の予定はないが、WOWOWのボクシング番組『エキサイトマッチ~世界プロボクシング』で2024年7月29日(月)午後9:00から放送、WOWOWオンデマンドでも同時配信の予定となっている。
無敗記録を続け、高いKO率を誇りながらも、昨年12月9日にフロリダ州ペンブロークパインズのチャールズ・F・ダッジ・シティセンターでロベイシ・ラミレス(キューバ)からタイトルを奪うまで、エスピノサはほぼノーマークの存在だった。
このタイトルマッチでも、エスピノサ(24勝0敗、20KO)は圧倒的不利とされ、ファンや専門家の間ではおまけの試合のように見られていた。なにしろ、対戦相手のラミレスはロンドン、リオと2度のオリンピックで金メダルに輝き、プロデビュー戦に敗れたものの再戦で勝利を飾ってからは13連勝と輝かしいキャリアを積み重ねてきた。ラミレスにしてみれば、もっと大金の動くビッグマッチに照準を絞っていたに違いない。
だがゴングが鳴ると、誰もが目を疑った。エスピノサは試合当初から終盤まで一貫してラミレスを上回る数のパンチを見せ、5ラウンドにダウンは喫したものの、その後は試合をコントロールしてラミレスのスタミナを奪っていった。そして、12ラウンドにラミレスからダウンを奪い、判定勝利を決定的なものとし、夢を実現してみた。
パンチスコアリングシステム『CompuBox」によれば、新チャンピオンのエスピノサは995本という驚異的なパンチを放ち、222本をヒットさせている。これこそが、この試合の勝因だ。対するラミレスのパンチは376本中119本のヒット、両者を比較するとパフォーマンスの差が分かるだろう。キューバが生んだスターには、エスピノサの猛攻を食い止めることもできなければ、それに対抗するだけのパワーもなかった。
ここでは、名門誌『The Ring』(リングマガジン)元編集人で本誌格闘技部門副編集長のトム・グレイが、エスピノサのキャリアについて掘り下げるとともに、彼が『ザ・モンスター』井上尚弥を倒す可能性について考察する。
ラファエル・エスピノサとは何者?
1994年4月21日にメキシコはミチョアカン州ラ・パルマで生まれたエスピノサは、18歳でプロボクサーとしてデビューした。多くのメキシコ人ボクサー同様、エスピノサもキャリア序盤から積極的に試合をこなし、大きなフレームによる持ち前のパワーを見せつけた。
エスピノサが記録した20戦のKO勝利のうち、15戦は3ラウンド以内に決着しており、さらにそのうちの7試合では1ラウンド終了のゴングすら聞くことはなかった。対戦相手にこれといった選手はいなかったかもしれないが、エスピノサは2023年に階級をあげると、予定された10回戦3試合を戦い、タイトルへの挑戦権を手に入れた。
ラミレス戦での致命的なダウンから立ち直っての勝利は、トップレベルの選手たちに向けたエスピノサの名刺がわり、その実力を見せつけた試合となった。
井上尚弥がフェザー級に転向するのはいつ?
井上はスーパーバンタム級でその実力を存分に見せつけ、アンディスピューテッド・チャンピオンの座を手に入れた。スティーブン・フルトン(8回TKO)、マーロン・タパレス(10回KO)、ルイス・ネリ(6回KO)といった選手たちがこの階級屈指の選手たちだったことに異論はなく、そのいずれもが井上の前ではなす術なく破れ去った。
井上陣営とトップランク社が次戦相手決定に手間取る中、WBAは井上の次の対戦相手にムロジョン・アフマダリエフを指名した。ウズベキスタン出身のアフマダリエフはかつてスーパーバンタム級の統一チャンピオンだったが、ボクシング界最高の選手のひとりである井上の前では、圧倒的不利と言わざるを得ない。ただ、この試合に勝ってしまえば、もはやスーパーバンタム級に井上の相手となる選手は完全におらず、階級をあげることは不可避と言わざるを得ないだろう。
今年初め、井上は米ボクシング専門誌『リング』誌の杉浦大介氏の取材で、2025年には階級をあげることもありうると語っている。
「今年(2024年)は3試合を戦おうと考えています」と井上は自身のプランを語った。
「この3試合はスーパーバンタム級での試合となると思います。フェザー級に転向するのは来年、自分自身と自分の体がどう感じるか次第ですね」
その後、ネリ戦を経た井上は「来年いっぱい。あと4〜5試合」と少し微調整したプランを明かした。来たるフェザー級へのトランジションに向けて、じっくり進める方針のようだ。
井上尚弥とラファエル・エスピノサの体格差は?
数字だけを見ると両者には大きな開きがある。井上は身長165cmでリーチは171cm、対するエスピノサはフェザー級戦線でも高身長の部類となる185cm、リーチは188cm。つまり、身長で20cm、リーチで17cmのアドバンテージという計算になる。
フェザー級で身長165cmというファイターはあまり聞いたことがない。だがそうなるはずだ。なぜなら、井上はこれまでにも自分よりも大きな選手、リーチのある選手を倒してきた実績もあるからだ。ただ、エスピノサもまた、井上が対峙してきたこれまでの選手とは似ても似付かない選手だ。
ラファエル・エスピノサは井上尚弥を倒せるか?
実際のところ、エスピノサにチャンスはあるのか。ロベイシ・ラミレスを倒すのと、井上尚弥のようなパウンド・フォー・パウンド屈指のスーパースターを倒すのは全く別の次元の話である。
身長差では井上が大きく不利だが、井上にはエスピノサを圧倒するだけの武器がある。『モンスター』がインサイドに潜り込み、一方的にボディを打ち込む姿が目に浮かぶようだ。一般的に高身長に対して軽い階級で戦うファイターは、体重を絞るあまりフィジカルに不安を抱える。
エスピノサがしっかりと勝ち取るラウンドもあるだろうし、そのテクニックには井上も手を焼くかもしれない。ただ、エスピノサが12ラウンドを通じて攻め続ける姿を想像するのは難しい。それよりは、井上がWBO王者のエスピノサを効果的なクリーンショット、ボディ攻撃で疲弊させたのち、どこかで決定打を打ち込み試合を決めると考える方が現実的だ。
両者ともにプロモーターはトップランク社なので、エスピノサが無敗を続け、タイトルを保持していれば、早ければ2025年にはこの対戦が実現するものと期待される。
※この記事はスポーティングニュース国際版の記事を翻訳し、日本向けに一部編集を加えたものとなります。翻訳・編集: 石山修二(スポーティングニュース日本版)