7月25日に井上尚弥の挑戦を受けるWBC・WBO世界スーパーバンタム級王者スティーブン・フルトン。決戦2週間前の7月11日に来日し、13日には練習も公開したが、わずかな時間だけで手の内はほとんど見せなかった。
挑戦者の井上優位とされる下馬評だが、名門誌『The Ring』(リングマガジン)出身で、本誌格闘技部門副編集長のトム・グレイがフルトンの勝機を占う。
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圧倒的不利の下馬評に直面するフルトン
おそらくスティーブン・フルトンは同意しないだろうが、このWBC・WBO世界スーパーバンタム級王者は、今、ボクシング界で最も困難な壁に直面している。7月25日にパウンド・フォー・パウンドの怪物である井上尚弥と対戦するのだ。
この両者の対戦は、東京の有明アリーナを会場として開催される。米国内ではスポーツ専門局『ESPN+』でストリーミング中継される(訳者注:日本国内ではNTTドコモが提供している動画配信サービス「Lemino(レミノ)」で独占無料生配信される)。
井上(24勝0敗、21KO)は間違いなく地上最高のボクサーだ。この3階級世界王者は電撃的なスピードスターであり、左右のどちらからも強力なパンチを放ち、そして完璧なテクニックを兼ね備えている。そして、そうした才能すべてが成功への果てしなき渇望によって支えられている。
それでは、フルトン(21勝0敗、8KO)はこの類まれな格闘マシーンに対抗するためには何をするべきなのだろうか。
フルトンが採るべき戦略
フルトンの通称は「Cool Boy Steph」(クールボーイ・ステフ、ステフはスティーブンの略称)だ。攻防一体となった美しいテクニックを持ち、反射神経に優れ、多彩なパンチはどれもエリートレベルである。この冷静沈着なアメリカ人ボクサーは左右にスイッチもできるうえ、カウンター技術も高い。「ザ・モンスター」こと井上にとっても、けっして油断できる相手ではない。
井上と対戦するファイターが最も避けるべきは、「井上のパターンに陥る」ことだ。この日本人スターは一撃必殺のパワーを持ちながら、常にカウンターのチャンスを窺っている。たったひとつのミスを冒すと棒立ちにさせられる。そしてすぐに回復しない限り、ボクシング界きっての連打にさらされることになる。
フルトンが井上に対抗するだけの経歴と技術を持っていることには疑問の余地はない。問題は12ラウンドを通して、有効なゲームプランを維持できるかどうかにかかっている。井上は21回のKO勝利のうち、6ラウンド以前での決着が15回ある。しかし、試合後半ラウンドでのKO勝ちも6回ある。この数字から2つのことが分かる。
ひとつ、井上は試合後半までパワーを残すスタミナがある。ふたつ、井上は忍耐強く、また賢明に、長い試合を戦うことができる。
フルトンのKO率は38%でしかないことから、井上に大きなダメージを与えることは考えにくい。しかし、どのような対戦相手でも侮ることができないスピードとシャープなパンチを持っている。井上がノニト・ドネアとの第1戦で負ったカット(裂傷)と同じような傷を与えられるかもしれない。
フットワークもフルトンにとって成功へのカギになる。このフィラデルフィア出身のテクニシャンは素晴らしいフットワークを持っている。そのことは昨年6月に元統一王者のダニエル・ローマンを完全に翻弄したことでも明らかだ。シュガー・レイ・レナードほどではないが、この28歳の王者は、多彩な角度を用いて、相手の死角からパンチを放つことができる。
しかし、フルトンは常に動き回るべきでもない。昨年12月にポール・バトラーは井上からバックステップで逃れようとしたが、その作戦はまったく井上に通用しなかった。井上は終始積極的に攻め続け、最終的にはボディーへのパンチで11ラウンドKO勝ちを収めた。
クリンチについても同じことが言える。フルトンはナチュラルな体格では井上より大きい(フルトン=169cm、井上=165cm)。密着すれば有利なはずだ。だからこそ、フルトンがクリンチを多用すれば、それは必ずジャッジの心証を悪くする。悪くすると、ペナルティを与えられるかもしれない。適切なタイミングでの数回のクリンチは問題にはされないだろうが、その手法に固執することは避けなくてはいけない。
フルトンは約9年に及ぶプロボクサーとしてのキャリアで通算143ラウンドを戦い、そのほとんどを勝ち取ってきた。長期戦を立ち回る巧さは特出しており、僅差になったのはブランドン・フィゲロア戦くらいのものだ。攻撃的なフィゲロアは1ラウンド平均73発のパンチを放ち(合計871発)、12ラウンド判定にまでこぎつけた。井上が最後に12ラウンドを戦ったドネア戦では、井上のパンチは1ラウンド平均53発だった。井上はフィゲロアに比べると慎重で手数が少ないタイプだ。長期戦を得意とするフルトンとすれば、その与えられた時間と身体的に優位な距離を有効に使えるかもしれない。
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総括:フルトン勝利は予想されても良い波乱
フルトンに有利な材料を見つけようとしても、井上を凌駕するのは極めて困難だ。アウェイとなる日本での戦いとなると尚更でもある。井上は賢いボクサーであり、その強力なパンチはジャッジの目に映りやすい。プロ・ボクシングでは相手にどれだけのダメージを与えられるかがすべてであり、過去の歴史もこの対戦は井上が有利であると示している。
私個人は井上が試合後半ラウンドでKO勝ちを収めることを予想する。しかし、フルトンが井上に勝ったとしても、それは大番狂わせではない。予測されてもよい波乱である。井上が4階級世界王者になるための道のりはけっして平坦なわけではない。
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原文:How Stephen Fulton can beat Naoya Inoue /Text by Tom Gray
翻訳:角谷剛
編集:スポーティングニュース日本語版編集部 神宮