F1のチャンピオンチーム・レッドブルのニューマシン「RB19」が2月3日に発表となったが、その席上でレッドブルはアメリカ大手自動車メーカーのフォードとの提携を発表した。2026年の車両規則改定に合わせて、レッドブル傘下の「レッドブル・パワートレインズ(RBPT)」とフォードがパワーユニット(PU)を共同開発し、「レッドブル・フォード・パワートレインズ」としてレッドブルとアルファタウリへ供給する、というものだ。
3年後に迫るF1の規則改定に向けて、大きな一歩が刻まれた瞬間だったともいえよう。レッドブルとフォード、それぞれの歩みを2本立てでお送りする。1本目の今回はPUをめぐるレッドブルチームの歴史についてだ。
PUはレッドブルの泣きどころ
レッドブルは2005年のF1参戦開始以来、エンジンやPUの供給においてなにかと難題を抱え続けてきた。参戦当初は決してパワフルとはいえないコスワースのエンジンで戦い、その後もフェラーリやルノーからエンジンの供給を受けての戦いが続いていた。ちなみに参戦当初にコスワースエンジンとなったのは、もともとレッドブルがF1参入にあたって買収したのがフォードの直系チームだった「ジャガー」であったことが大きい。その流れからフォードの関連企業だったコスワースのエンジン供給を受けることとなったためである。
当時も今もフェラーリやルノーはメーカー直系の「ワークス」と呼ばれるチームを持っていて、基本的に彼らのエンジンはワークスチームのマシンに最適化された仕様でもある。あくまで当時のレッドブルは既に作られたエンジンが供給される「カスタマー」の一団に過ぎなかった。それでも、空力をはじめとしたマシンの総合的なバランスで優位を保ち、チャンピオンチームに成長するのだが、2014年以降は一気に戦況が変わってしまった。
この年からF1はハイブリッドユニットに1.6リッターのターボエンジンを合わせた、現在のPUのかたちに。ところがレッドブルに搭載されたルノーPUの性能がライバルより大きく劣っており、レッドブルはタイトル戦線どころか優勝争いからも後退。ダニエル・リカルドやマックス・フェルスタッペンが時折勝利をもたらすものの、メルセデスとフェラーリの次、というポジションに落ち着き始めていた。
この間、ルノーとの関係も急速に悪化し、一時は兄弟チームだったトロ・ロッソ(現・アルファタウリ)ともどもF1撤退もちらつく状況に。チームは当時のスポンサーだった腕時計メーカーのタグ・ホイヤーのスポンサーを元手に、ルノーから一旦は供給されたPUの改良に取り組むなどの手を打つが、競争力回復のためにはPUそのものに手をつけなくては到底打開できない状況となっていた。
頭の痛い状況が続くなか、まずトロ・ロッソが2016年にフェラーリのPUへの変更を決断する。だが、このとき供給されたのは1年古いタイプのもので、日々進化の続くF1の世界で「1年昔」のものを使うメリットは皆無に等しく、当然競争力も最新型に比べれば劣る。2017年には再びルノー製PUに戻ったものの、それでどうこうできる問題ではない状況だった。
ホンダが現れ、そして去り
この状況で手をこまねいていたのが、マクラーレンとのタッグに行き詰まって契約解消を突きつけられ、ザウバーとの提携が白紙に戻ってしまった(詳細は以前掲載のコラムを参照されたい)ホンダである。ホンダもホンダで、「続けたくとも供給先がない」という袋小路におちいっていた。マクラーレンのチーム代表だったロン・デニスはホンダPUの独占が崩れることに否定的だったのだが、そのデニスもすでにF1の世界を去っていた。つまり、障壁はほとんどなくなっていた。
まず2018年シーズンにトロ・ロッソがホンダPUの供給を受けることとなり、いくつかのレースで好走をみせると、2019年にはついにレッドブルがホンダPUの搭載を決める。そこからの活躍は、読者の皆さんの記憶にも新しいところのはずだ。レッドブルは優勝・タイトル戦線へと舞い戻り、2021年には「レッドブル・ホンダ」としてフェルスタッペンがドライバーズチャンピオンに輝いた。
だが、2020年の段階で、ホンダは社内の将来的な研究開発への資源集中を目的に、2021年限りでのF1撤退を発表していた。「もう撤退しない」というスタンスで始まったはずのF1挑戦は結局7シーズンで幕を下ろすこととなった。
その後、レッドブルとアルファタウリのPUは、ホンダ傘下の「HRC」が製造・供給し、RBPTが調整を行なうというかたちに。ただ、結局はこの体制でも将来が確約されたものではなかったし、ホンダもたびたび再参入について態度を濁すコメントを残していた。その間もレッドブルはポルシェによる提携案をめざしながら、方向性の違いから破談となっていたことも忘れてはいけない。レッドブルは将来を担保する協業者によるPUを欲し続けていたし、その構想に乗りつつ、まとめ上げたのがフォードだったのだ。
レッドブルが長年抱え続ける、強力なPUの安定した供給という問題。そこに絞って見てみれば、自らの力でその未来をコントロールしようとしたわけで、決して不思議のない出来事でもあるのだ。
FIAからはパワーユニット供給元も発表
レッドブルの新車発表と同じ2月3日、FIAは2026年からのF1でのPU供給元として、6社が参加すると発表した。その中にはレッドブル・フォードの名前もあれば、新規参入をめざすアウディ、そしてHRCの名前も記載されている。「ホンダ」ではなく「HRC」であることに、今後に向けた意味の大きさがあるはずだ。
HRCはそもそも、ホンダのモータースポーツ活動がホンダ本体の意向や業績に左右されないことを目的に組織された経緯がある。2輪においてはMotoGPのレプソル・ホンダのように、強力な勢力を築き上げることに成功してきている。
残るは、どれだけ確かな体制を築き上げて今後のF1に向き合おうとしているのか、というポイントのみである。当代最強チームと袂を分かつと決まったのは確かに苦しいことではあるが、そうとなった以上、大事なのは未来である。よりよいF1での未来を、レッドブルとフォード、ホンダとHRCの双方が築き上げていかなくてはならないはずだ。
オフシーズンも随時コラム更新
スポーティングニュース日本語版では、オフシーズンもF1にまつわるコラムの更新を予定している。来シーズンに向けた話題や、過去のF1にまつわる雑学的なもの、F1初心者という方から、玄人の皆さんでも思わず頷くような内容まで幅広く取り扱う予定だ。ぜひオフシーズンの楽しみとしていただきたい。
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