[宮地陽子コラム第102回]ラプターズとスペインで世界一になったマルク・ガソルが語る「もっと重要なこと」

2019-09-20
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マルク・ガソルにとって、この3か月は選手として夢のような月日だった。6月にトロント・ラプターズの一員として初めてのNBA優勝を経験したのに続き、9月15日にはスペイン代表として、FIBAバスケットボール・ワールドカップでも優勝した。

「すばらしい3か月だった。とても幸せだし、好運だった。どちらの優勝も満足感がある。まったく違う大会で、まったく違う仕組みだけれど、チームメイトのためにすべてを尽くしたという点では同じだ」。

そう言って喜んだガソルだが、「あなたにとって、今が人生最高のときですか?」との問いかけには、迷うことなく、きっぱりと否定した。

「僕の人生最高のときは、子供たちが生まれたときだ。バスケットボールも大事で、毎日やっていることだけれど、人生においてはもっと重要なことがいくつもある」。

実は、ガソルがそのことを痛感したのは、5年前のワールドカップのときだった。母国スペインで開催された大会で、国中から優勝の期待がかかっていた。その最中に、妻が最初の子を出産。マドリードで戦っていたガソルは、試合のない日に飛行機に乗って妻がいたバルセロナに駆け付けた。妻の出産を見守り、病院のソファで寝泊まりし、試合の朝にチームメイトたちの元に戻った。しかし、その日の準々決勝でスペインはフランスに敗れ、優勝どころかメダルも取れなかった。

このフランス戦でシュートを決められず、わずか3点に終わったガソルに対して、大会中にチームを離れたことを批判する声もあった。

「なぜ僕が離れたのか、理解してもらえなかった。チームメイトの中にもわからない人がいたほどだ」とガソル。

それでも、いや、だからこそ、「これは自分の人生だから、自分で決断する」との思いを強くしたという。

「その決断とともに生きていかなくてはいけないのは自分なんだ。後から、こうすればよかった、ああすればよかったと後悔するわけにはいかない」。

もちろん、スペイン代表のユニフォームを着ることを軽視しているわけではない。むしろ、誇りにも思っていた。だから今年、6月までNBAファイナルを戦った後、ほとんど休む間もなく代表合宿が始まっても、辞退はしなかった。今回は、それが大事だと思ったからだった。

ワールドカップ優勝の金メダルを胸に、ガソルは言った。

「明日も太陽は上がるし、向かうべき戦いはまだある。今は世界王者になることができたけれど、バスケットボールは僕の人生の中で小さな世界にすぎない。それより、若い世代を励ますようなメッセージを伝えることのほうがずっと重要なこと。優勝で注目を集めるだろうから、こういうときこそ、僕らを尊敬してくれて、僕らのようになりたいと思ってくれている少年少女たちのために、いいお手本とならなくてはいけない」。