選手やコーチたちの興味深いコメントの背景にあるものはいったい何なのか――? 米国ロサンゼルスを拠点に長年NBAを追い続けるライターの宮地陽子氏が、ある『一戦』で発せられた『一言』の真意を読み解く。
第32話となる今回は、ロサンゼルス・レイカーズのレブロン・ジェームズがメンフィス・グリズリーズとの第4戦後に語った言葉の裏側に迫る。
今日の一戦一言(いっせんいちげん)
レブロン・ジェームズ(ロサンゼルス・レイカーズ)
「誰かのバスケットボール人生にとって最高なできごとに関わることができるなんて、これほどクールなことはない」
4月24日(日本時間25日)のロサンゼルス・レイカーズ対メンフィス・グリズリーズのプレイオフ第4戦は、オーバータイムの激戦をレイカーズが制してシリーズ3勝目をあげ、シリーズ勝利に王手をかけた。この試合で、苦しみながら勝利したレイカーズを牽引していたのが、38歳のレブロン・ジェームズだった。
出場時間はチーム最多の45分28秒、第4クォーター終盤にジャ・モラントからチャージングを取ったかと思うと、攻撃ではジャレン・ジャクソンJr.にブロックをさせないように高いアーチの、難易度が高いレイアップを残り0.8秒で決めて同点にした。
オーバータイムでも、終盤にディロン・ブルックス相手のドライブインで3点リードを5点に広げて勝利を決定づけるなど、その時々にチームが必要としているプレーを出し尽くしたような大車輪の活躍だった。トリプルダブルまであとアシスト3本の22得点、20リバウンド、7アシストの記録だった。
なかでもリバウンド20本は、レブロンにとってレギュラーシーズン、プレイオフを通して自己最多記録。NBA史上でも、プレイオフで20得点以上、20リバウンド以上の記録をあげた選手のなかで最高齢と、リーグの歴史に記録を刻み続けている。
さすがに最後は疲れきっていたようで、思わず自分からタイムアウトを請求した場面もあった。そして、「次の試合までには十分休む時間がある。でも、それは今ではない」と自分に言い聞かせながら、気持ちを切らさないようにプレイし続けたのだと明かしていた。
試合後の会見で、20-20を達成した歴代最高齢の選手であることについて、「この年齢で、そういったことを達成できることは、あなたにとってどんな意味があるのか」という問いかけがあった。そのときの答えが興味深かった。
レブロンはまず、「コート上で良いパフォーマンスができるように、身体をできる限り最高の状態にするようにしている。とにかくポストシーズンが大好きだからね」と話して、その後にこう続けた。
「多くの試合を経験してきたけれど、コート上でチームメイトたちと共にプレイできること、彼らがこれまで一度もやったことがないような経験を、彼らに与えることが大好きなんだ」
そんなコメントが出てきたのには理由があった。レブロンによると、試合後のロッカールームで、オースティン・リーブスが「僕のバスケ人生でやってきたどんなことよりもすばらしい経験だった」と感激していたのだという。
NBA2年目のリーブスにとって、今回が初めてのプレイオフ。しかも、レイカーズにとって10年ぶりに観客動員100%で戦うプレイオフとあって、会場の雰囲気もレギュラーシーズン中とは比べ物にならない盛り上がりだった。そんななかで、レブロンがスーパープレイを連発しての勝利。リーブスが興奮するのも当然だ。
レブロンは、そこまで感激しているリーブスを見て、この上ない幸せを感じていた。
「それ(リーブスの言葉)を聞いて、僕はすごく嬉しかったんだ。誰かのバスケットボール人生において最高なできごとに関わることができるなんて、こんなクールなことはないからね」
自分が38歳で記録を作ったことについて聞かれた質問だったのだが、最後はプレイオフという舞台でチームメイトに最高の経験をさせることができたことの喜びを語っていたのだ。
子供の頃から、自分が活躍するよりも、チームメイトたちが活躍することに喜びを感じてきたレブロンらしいコメントだ。最近は若い選手たちが戦いを通して成長し、彼らと共に戦い、彼らの成長を助けられることにも楽しみを見出しているようだ。
そして、成長したチームメイトたちと共に戦うプレイオフ。38歳のレブロンにとっては、チームメイトたちが喜ぶ姿こそが、40近くになっても頑張り続けるエネルギーの源なのかもしれない。
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