母親であることとプロのアスリートであることを両立するのは容易なことではない。遠征で長い間家を空けることもあり、それも地球の裏側に行かなくてはいけないときも、時差で昼と夜が逆転することもある。
しかし、母親たちはスーパーヒーローだ。米国女子サッカー代表チームのアレックス・モーガン、クリスタル・ダン、そしてジュリー・アーツのトリオはFIFA女子ワールドカップ2023という重圧に耐えながらも、母親でいられることを力強く証明している。
7月25日の午後、モーガンが記者会見の席に向かった頃、3歳の娘チャーリー・カラスコちゃんはベッドに入るところだった。ママと離れた1日がまた終わろうとしていた。ヤフー・スポーツが報じたところによると、15分間の会見中にモーガンの電話にいくつかの着信が入った。モーガンは会見を中座したが、残念なことにチャーリーちゃんと話すことはできなかった。
ダンは少し異なるやり方をしている。
ダンの1歳になる息子マーセル・ジーン・スブリエちゃんはチームと一緒にニュージーランド・オークランドにいるのだ。だからといって、ダンがモーガンより長い時間を子どもと一緒に過ごせているわけではない。ダンがヤフー・スポーツに語ったところでは、彼女が息子と過ごせる時間は1日に2時間ほどでしかない。
母親として、米国女子サッカー代表チームの一員であることはより大きな犠牲を払わないといけない。自分の子どもを他人に託さざるを得ないことがしばしば起こるからだ。
モーガンはワールドカップ期間中チャーリーちゃんを乳母とともに家に残すことを選んだ。地球の裏側に1か月以上滞在することは幼い子の体内時計を狂わすと考えたからだ。一方で、ダンはマーセルちゃんをお気に入りのおもちゃとともに帯同することを選んだ。
もっとも、モーガンはこれ以上チャーリーちゃんと離れていなくてもよくなる。チャーリーちゃんがもうすぐニュージーランドにやってくるのだ。
アーツが11歳の息子マッデン・マシュー・アーツちゃんを帯同しているかどうかは、彼女も夫のザック氏も明らかにしていない。マッデンちゃんは8月11日に初めての誕生日を迎える。
子どもを持つ米国女子サッカー代表の選手たち
選手 | 配偶者 | 子の数 | 子の年齢 |
アレックス・モーガン | セルバンド・カラスコ | 1 | 3歳 |
クリスタル・ダン | ピエール・スブリエ | 1 | 1歳2か月 |
ジュリー・アーツ | ザック・アーツ | 1 | 11か月 |
アレックス・モーガンの子ども
アレックス・モーガンの娘チャーリーちゃんは2020年5月に生まれた。
モーガンはそのとき31歳だった。妊娠7か月目まで米国女子サッカー代表チームの練習に参加し、出産後まもなくチームに復帰し、2021年東京オリンピックでは米国代表メンバーとして参加した。米国は銅メダルを獲得した。
後にモーガンは母親であることと最高レベルのサッカーに復帰することのバランスに苦しんだことを明かしている。現在34歳の彼女は2023年ワールドカップを前に次のように語った。
「出産後に復帰することは非常に厳しかったです。私はすぐにはスピードも敏捷性も戻ってこないように感じました。だから自分のプレイスタイルを変える必要がありました。スピードに頼らず、スペースとボールに対して、それまでと違うアプローチをとることにしたのです。スピードが戻ってくると、今度はそのアプローチと融合させることができるようになりました。だから私はかえって以前よりゴールを狙うポジションを上手く取れるようになったと感じています」
クリスタル・ダンの子ども
クリスタル・ダンの息子マーセルちゃんは2022年5月に生まれた。
ダンはそのとき29歳だった。所属するポートランド・ソーンズFCと米国女子サッカー代表チームで大きな役割を担っていた彼女は、妊娠・出産からかつてないほど驚異的なスピードでフル復帰をはたした。
ダンは妊娠期間最後の3か月間に入っても、出産予定日の1か月前になるまで、クラブチームで接触を伴わないドリルに参加していた。出産後1か月で彼女のボレーシュートがネットを揺らす場面が見られた。2か月後にはスタミナとパワーがチームメイトと練習で競えるレベルにまで戻ってきていることを感じた。3か月後にはチームに完全復帰し、米国サッカー・キャンプに参加した。
ダンは現在の自分と妊娠前の自分を比べないようにしている。それらはまったく違うバージョンの身体なのだ。どちらが優れ、どちらが劣っているわけではない。
31歳になったダンは出産後の早期復帰について、ヤフー・スポーツに次のように語っている。
「世間の人は『以前のあなたに戻らなくてはいけない』とプレッシャーをかけます。私はそれを不可能だと思います。なぜなら違う人間、違う選手になるプロセスを経てきたからです」
ジュリー・アーツの子ども
ジュリー・アーツの息子マッデンちゃんは2022年8月に生まれた。
アーツはそのとき30歳だった。2021年東京オリンピック以来、靱帯裂傷のためピッチに立っていなかった。2023年ワールドカップで米国女子サッカー代表チームのメンバーに選ばれることは考えることすらできなかった。
医師から許可されるとすぐにアーツはトレーニングを始めた。いつ復帰できるかはまったく分からなかった。試合に戻る予定を立てる前に、慎重に自身の経過を見極めようとした。そのためにキャリア初期に指導を仰いだポール・テイラー氏とマット・ミッドキフ氏を呼び寄せた。
彼らはアーツにメジャーリーグ・サッカー・アカデミーに所属するチーム、フェニックス・ライジングを紹介した。アーツは出産後6か月目からU19の男子選手たちとともにトレーニングを開始した。ティーンの選手たちは彼女の努力に目を見張った。離脱以前より良いサッカー選手として復帰することを決意していたのだ。
アーツは2023年3月には代表チームのトレーニングキャンプに招集され、所属クラブのエンゼル・シティFCには4月に復帰した。
31歳になったアーツはワールドカップに出場することについて次のように語っている。
「正直に言って、ここに来られるとは思ってもいませんでした。どのワールドカップも特別です。だけど、怪我、妊娠、出産の後では不可能だと思っていました。私の身体は以前とは違うように感じられました。適応するには時間がかかります。ほんの数か月前まで、私はサッカーの試合に出ていなかったのですから。だけど、私はここにいます。とても幸福です。すべてが特別です。ただ信念と決意だけがそれを可能にしてくれました」
アーツは米国の初戦だったベトナム代表との試合でセンターバックとして90分間フル出場した。このポジションでプレイすることは5年ぶりだった。