バスケ解説者・佐々木クリスに聞くFIBAワールドカップ2023:どんな大会? 日本代表の目標や特徴は?

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Chris Sasaki Japan 佐々木クリス バスケットボール 解説者
(Takuma Hayasaka)

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FIBAバスケットボールワールドカップ2023が8月25日に開幕。日本、フィリピン、インドネシアによる3か国共催となる今大会について、バスケットボール・アナリスト(解説者)として活躍する佐々木クリス氏に深掘り解説してもらった。

バスケW杯はどんな大会なのか? パリ・オリンピック出場権はどのように関わっているのか? そして、日本代表の今大会における目標やチームとしての特徴は――?

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FIBAが主催する世界最大級の国別対抗トーナメント

――今回のバスケットボールワールドカップを一言で表すとどんな大会になりますか。

佐々木クリス:FIBA、国際バスケットボール連盟が開催する世界最大級の国別対抗トーナメントです。世界のバスケットボール1位を決める大会ですね。

――今大会の見どころは、ズバリ何でしょう。

佐々木クリス:まずは何といっても、世界の覇権争いです。今は、バスケットボール王朝と言われているアメリカですらFIBAのバスケットボールランキングでは1位ではなくて、今はスペインが1位です。その次にUSA、そしてオーストラリアというような順になっています。

今回のワールドカップの成績如何では、世界の覇権がまた違う国に移ってもおかしくない。それぐらい国同士がお互いのプライドをぶつけて戦っていくことになると思います。

あとはやはり、世界の潮流をチェックするということも非常に重要だと思います。大きな戦術の変化、オフェンス面での変化やディフェンス面での変化、どういったことで新たに革新が行われるのか。

例えば、2016年のリオデジャネイロ・オリンピックでは、スペイン代表が『スペインピック』という新しいピック&ロール(攻撃の選手が壁となったボールハンドラーの守備を邪魔する戦法)を繰り出してから、それがブワッと世界に広がったというような、そういった技術革新が起きるかどうかというのも楽しみなところだと思います。

より一般的なファンの方に向けて言うと、やはり世界トッププレーヤー同士のぶつかり合い、この華々しさですよね。何と言っても、世界最高峰のリーグであるNBAから2019年のワールドカップには17か国・54人ものNBAプレーヤーが出場しました。そして、今大会は少なくとも(32か国中)20か国にはNBAプレーヤーが存在していて、前回の54人をひょっとしたら上回るかもしれません。彼らの華々しいプレーが大きな見どころになってくるんじゃないかなと思います。

あとは日本のファンからすると、日本が歴史的な偉業を達成できるのかどうか。日本のみならず、アジアの国が現代のバスケットボールにおいて、アメリカ大陸やヨーロッパ大陸の国に対して1勝でも挙げれば、これは歴史的な事件とも言えます。なので、こういった天変地異を起こせるのか、といったことも非常に大きな注目だと思います。

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自国開催の意義と重要性

――今大会は日本、フィリピン、インドネシアの3か国共催ということになりますが、日本の自国開催の大会とも言えます。日本でこのワールドカップが開催される意義や、歴史的な重要性、また、それによる今後への期待などについて教えてください。

佐々木クリス:日本が自国でこのワールドカップを開催する意義というのは、やはりこのバスケットボールをよりメジャーなスポーツにしていくための機運をさらに高めていくということだと思います。確かに僕も日常的に『バスケット、盛り上がっているよね』とか、『Bリーグで活躍しているよね』『渡邊(雄太)くん、活躍しているよね』というふうに声を掛けていただくことは増えたんですけれども、それでもやはり野球やサッカーのほうがメジャースポーツとしての市民権を絶対的に勝ち得ています。まだまだ、一般の日本の方々のなかでバスケットボールが市民権を勝ち得たというふうには、言い難いのが実情なんじゃないかなというふうに思います。

そういったなかで、今年はBリーグが開幕して7シーズン目が終わりました。(2016年に)Bリーグの開幕があり、2019年には中国の北京でのワールドカップ出場、さらには2021年に東京五輪に出場して、国際舞台の中で日本代表が存在感を高めれば高めるほど、日本国内においてもバスケットボールの人気というものがより膨らむと思いますし、不動のものになっていくと思うので、やはり世界に向けても日本国内に向けても、日本バスケットボールの前進というのを継続的にアピールしていくっていうことが非常に大事になると思います。

今大会は自国開催なので、当然ながら選手がより身近に感じられますし、そういったところでいろいろとタッチポイントも増えるということで、新たにそのバスケットボール熱をダイレクトに、日本に住んでいる一般の方々が感じやすい状況になっているというのは、本当に大事なポイントなんじゃないかなっていうふうに思います。

ただ、今大会は、2大会続けてアジア開催です。前回(2019年)が北京で、今回はフィリピン、日本、インドネシアによる3か国共催となります。

インドネシアは国民の半数、1億人以上が30歳以下です。30歳以下の世代というのは、NBAもFIBAもそうだと思うんですけども、SNSを駆使するので、ハイライト動画でどんどんバズ(盛り上がり)を作れる。バスケットボールにとっては、めちゃめちゃターゲット層なんです。フィリピンなどは、アンケートをとると6割ぐらいの方々が「バスケットボールに興味がある」と回答するような国柄なわけです。

だから、FIBAの思惑としては、今よりグローバルになっていこうとするなかで、自分たちのビジネス、放映権料であったり、ファンベースの拡大っていうものを考えたとき、今は本当にアジアをターゲットにしています。その市場として、日本に対してもテコ入れしようとしているということも少し、見え隠れするのかなっていうふうに個人的には感じています。

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日本代表の目標は? パリ五輪出場権の獲得条件は?

――今大会に臨む日本代表の見所のひとつとして、来年2024年のパリ・オリンピックにどうつながるかというところがあると思います。どういう仕組みになっているんでしょうか。

佐々木クリス:世界ナンバーワンを決めるという、それだけでも重要な戦いであることはもちろんなんですが、今大会は次のパリ五輪の出場枠7つを懸けた戦いにもなっています。

アメリカ大陸、ヨーロッパ大陸の上位2チームがオリンピック出場権を獲得することができます。さらに、アフリカ、アジア、オセアニアの最上位の国も出場権を獲得します(※編集部注:その他、五輪開催国のフランスは開催国枠での出場が決まっているため、五輪出場12枠のうち8枠が今大会で確定する)。

ということで、日本はやはり、2024年のパリ五輪の切符をこのワールドカップで手にするためにも、その他のアジアのライバルたち、フィリピン、中国、それからイランといったチームよりも優秀な成績でこのワールドカップを終えるということが、非常に重要な戦いになってきます。

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今大会で敗れた場合、パリ五輪出場のチャンスは?

――今大会でアジア1位になれば、パリ五輪の出場権を獲得できるということですが、もしそれが叶わなかった場合、ほかにもオリンピック出場のチャンスはあるのでしょうか?

佐々木クリス:このワールドカップでオリンピック出場権を勝ち得なかったとしても、オリンピック予選トーナメント(世界最終予選)というものがあります。そこから最後の4枠を決めることになります。オリンピックは12枠という非常に狭き門で、最後にもう一回、最終予選トーナメントがあるということなので、今大会で五輪出場の望みが完全に絶たれるわけではないんですが、このオリンピック予選トーナメントというのは、ある意味、ワールドカップ以上に狭き門とも言えるような、そういった戦いになってきます。なのでやはり、このワールドカップでどれだけパフォーマンスを示せるかというのが重要なんじゃないかなと思います。

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ホーバス・ジャパンの特徴と見どころは?

――そんな大きな目標を持ってワールドカップに臨む日本代表ですが、トム・ホーバス・ヘッドコーチが目指すチームの姿、特徴など、現在のチームとしての見どころを教えていただけますか。

佐々木クリス:トム・ホーバスHCのバスケットボールの根幹にあるのは、『ペース』と『スペース』になります。ホーバスHCが求めるのは、何と言ってもスピーディーでアップテンポなバスケットボール。これがペースになります。日本は平均身長が世界よりも低いですから、「ハッケヨイ残った」と同じ土俵でまともに相手と組み合うと、どうしても大柄な横綱級が勝負に勝ってしまうわけです。

そこで、「せーの」で勝負するのではなく、バスケットボールは攻守が表裏一体となってますから、ある意味、不意打ち作戦もできるわけです。その不意打ちに近いのが、速攻とかトランジションオフェンスと呼ばれる部分になります。ペースを高めていけばいくほど、相手が油断している間に得点してしまう、というような不意打ちが効いてきます。

それから『スペース』というのが、例えばコート上の5人が全員3ポイントショットを決められるということを利用して、外角に陣取って中のスペースを広げていくことです。背の高い2メートル10センチ級の選手にゴール下に鎮座されてしまうと、そこに195cmの日本人がアタックしても弾き返されてしまいますよね。ただ、この2メートル10センチの選手がマークに付いている本来のオフェンスプレーヤーが3ポイントも打てれば、外に引き出すことができるわけです。

『引力の法則』と僕は呼んでますけれども、そうやってディフェンスを外に引き出すことができれば、身長の低い日本のプレーヤーたちがドリブルで中に切れ込んだり、バスケットに飛び込んでいってパスをもらったときに2ポイントエリアでのシュート成功率も高まるという、良いシナジーが起きる。それが狙いになってきます。これがスペースの活用ですね。

なので、ペースとスペースの活用というのは非常に重要です。3ポイントシュートはもう入って当たり前。これはもちろんなんですが、5人がパス、ドリブル、ディフェンス全てを本当に高いレベルでこなすことが、実はホーバスHCのバスケットボールを成立させるためには非常に重要だと思います。

トムさんは統計も用いたシュートセレクション(どのシュートを打つか、打たないかの選び方)の分析というものをすごく取り入れていて、「1回の攻撃あたりの得点期待値」をいかに高めていくかということが、日本が世界を相手に貴重な勝利を挙げるための鍵だとも言っています。

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佐々木クリス プロフィール

ニューヨーク生まれ、東京育ち。青山学院大学在籍時に大学日本一を経験。千葉ジェッツ、東京サンレーヴスでプロ選手として活動したのち、2013年よりNBAアナリストとしてNBAの中継解説をスタートさせる。2017年より国内Bリーグの公認アナリストとしてNHK、民放各局などでもBリーグ中継解説を務める傍ら子供達を指導する『えいごdeバスケ』を主宰。日本バスケットボール協会C級コーチライセンスを保有。著書に「NBAバスケ超分析~語りたくなる50の新常識~」がある。

取材:及川卓磨(スポーティングニュース日本版)
撮影:早坂卓真
協力:有限会社ボイスワークス

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スポーティングニュース日本版編集長
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