井上尚弥 vs. ルイス・ネリ:スーパーバンタム級で実現するかもしれない遺恨試合

Naoya Inoue and Luis Nery poised for grudge match
Naoki Fukuda & Golden Boy Promotions via Getty Images

12月26日に井上尚弥がスーパーバンタム級4団体王座統一に成功したあと、次に誰と対戦するのか、階級違いの猛者たちを含めたその候補者について、喧々諤々の議論が世界で巻き起こっている。

その中でも最も有力な候補となっている「ルイス・ネリ」と、日本ボクシング界や井上との因縁を踏まえ、試合が実現するのか、名門『The Ring』誌(リングマガジン)元編集人で本誌格闘技部門副編集長のトム・グレイが分析する。

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モンスター次戦の最右翼候補「ルイス・ネリ」

『ザ・モンスター』こと井上尚弥は、マーロン・タパレスを問題にしなかった。26日、東京の有明アリーナにおいて、この日本人スターは10ラウンドKO劇を披露したのだ。予想を覆すテクニックを見せはしたが、タパレスは2度キャンバスに沈み、最後は立ち上がることができなかった。

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スーパーバンタム級の4団体統一王者となった井上だが、しばらくはこの階級に留まることを明言した。そうなると次の対戦相手が誰になるかが気になるところだが、その最右翼として、元2階級世界王者であるルイス・ネリの名前が浮上するかもしれない。

ネリ(34勝1敗、26KO)はメキシコ出身の強力なサウスポーだ。『ザ・パンサー』(豹)の異名を持ち、現在29歳ながら、これまでに勝利した対戦相手には、山中慎介(2度)、マックジョー・アローヨ、ファン・カルロス・パヤノ、そしてアザト・ホバニシャンといった大物の名前が含まれる。ホバニシャン戦は『The Ring』誌の2023年度年間最高試合の候補にも挙げられている。

ネリ唯一の敗戦は、2021年5月に世界的強豪のブランドン・フィゲロアから喫したものだ。以後は4連勝中であり、現在はスーパーバンタム級のWBC指名挑戦者No.1にランクされている。

関連記事:【速報】井上尚弥vsタパレス|試合経過・結果・ハイライト|12.26 スーパーバンタム級4団体王座統一戦

『悪童』と日本ボクシング界、そして井上との因縁

そして、日本ボクシング界との過去の関わりの中で舞台裏のストーリーがある。ネリは優れたボクサーではあるが、この元王者の上には黒い雲が立ち込めている。とくに山中に勝利した2試合は、多くの理由で物議を醸したものだったのだ。

2017年8月、ネリは最初の対戦で山中を4ラウンドTKOで下したが、試合後に禁止薬物のジルパテロールに対する陽性反応が出たことが判明した。脂肪を減らし、筋肉量を増やすことができる、いわゆる「パフォーマンス増強ドラッグ」(PED)だ。

関連記事:近代ボクシングにはびこるパフォーマンス増強ドラッグ問題:一貫性なき違反罰則の矛盾

この事実が明るみになると、ザ・リング誌はネリの王座を即座に剥奪した。しかし、WBCは独自の調査を行い、薬品は意図せずに食べた牛肉に含まれていたものだとするネリの主張を受け入れた。ネリはWBCタイトルを維持し、山中とのリマッチが2018年3月に予定されることになった。

だが、その再戦前日、ネリは計量でバンタム級の規定体重より3ポンド(約1.36キロ)超過してしまった。さしものWBCも試合前にネリの王座を剥奪し、山中が勝利した場合には王座を獲得するとする条件で試合が行われた。

山中は試合を拒否することもできたが、地元である日本のファンを失望させたくないという気持ちからこの条件を受諾した。残念なことに、山中の勇気が報われることはなかった。行われた試合ではネリが2ラウンドTKO勝ちを収めたのだ。
 

JBCは2度に渡るネリの不正行為を重く受け止め、日本国内における無期限の出場停止処分を下した。

話はそれで終わらない。2019年11月、ネリはエマヌエル・ロドリゲスとWBC世界バンタム級挑戦者決定戦を行う予定だった。ところが、ネリはまたしても1ポンドの体重超過で計量の場に現れたのだ。ネリは再計量に向けた減量も拒否した。ロドリゲスは違約金を受け取ってリングに上がることを拒否し、試合は開始11時間前に中止された。ネリの『悪童』としての悪評は決定的となった。

当時バンタム級の統一王者だった井上はこのニュースに反応し、ネリはボクシング界から追放されるべきだとソーシャルメディアで述べた。

しかし、ネリが追放されることはなかった。それだけではない。スーパーバンタム級へ井上が上がって来たことで、ネリにとって、井上が新たな標的になった。そしてリングの上で決着をつけることを狙っている。2月にホバニシャン戦で勝利したあと、ネリは井上について次のように言った。

「井上はモンスターじゃない。小さいモンスターだよ。俺こそがスーパーバンタム級で真のモンスターだ」

 

 

井上(26勝0敗、23KO)は遺恨などなくても十分に破壊的だが、彼を怒らせるのは賢明ではないことは歴史が証明している。

前述のエマヌエル・ロドリゲスは2019年に井上と対戦した。試合の前に行われた公開練習の場において、ロドリゲス陣営の1人が井上の父親でありトレーナーの真吾氏を突き飛ばすという行為があった。

井上はその場ではとくに反応を見せなかったが、イギリス・グラスゴーのリングで怒りを爆発させた。それまで無敗だったIBF世界バンタム級王者のロドリゲスは、たった2ラウンドで完膚なきまでに叩きのめされたのだ。

試合後に井上は、「ロドリゲス陣営への怒りが無茶苦茶あった。絶対にぶっ倒してやろうと」と、当時の状況を振り返っている。ボクシングをスポーツと明言する井上だけに、挑発的なパフォーマンスは控え、試合で合法的に解決する方法を選択した。

そして、現在。井上はタパレス戦直後、次戦について自ら触れ、ファンに声を上げて欲しいと求めた。井上と言えども、日本で試合を行うには障害があるネリと対戦するためには、何よりファンの理解と支援が必要になる。

2024年に起こり得るかもしれない「ザ・モンスター vs. ザ・パンサー」。この試合にはすべての要素がある。世界クラスのパンチャーである2人が4団体統一戦を行うだけではなく、互いに少なからぬ敵意をかき立てる背景があるのだ。これ以上に求めるものがあるだろうか。

※本記事は、国際版記事を翻訳し、日本向けの情報を加えた編集記事となる。翻訳:角谷剛、編集:スポーティングニュース日本語版編集部 神宮泰暁

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著者
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Tom Gray is a deputy editor covering Combat Sports at The Sporting News.
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米国・カリフォルニア州在住。慶應義塾大学卒。主に米国でIT関連の会社員生活を経て、趣味のスポーツがこうじてコーチ業に転身。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つ。コンコルディア大学にて、コーチング及びスポーツ経営学の修士を取得。現在は州内の2つの高校で陸上長距離走部の監督と野球部コーチを務める。スポーツ、旅行、文化に関する多くのウェブサイトで執筆中。
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