井上尚弥は米国で試合をするべきか? その疑問をリング紙元編集人が一刀両断

Naoya Inoue training
Naoki Fukuda

井上尚弥は世界4階級を制覇し、2階級で4団体統一王者になったパウンド・フォー・パウンド最強のひとりだ。5月6日にルイス・ネリ戦を控える井上に対する「アメリカで試合をするべきだ」という話題が今、議論を呼んでいる。

果たして井上は米国で試合をする必要が本当にあるのか。名門『The Ring』誌(リングマガジン)で編集人を務めた本誌格闘技部門副編集長トム・グレイがその疑問に答える。

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■井上アンチによる「米国で試合しろ」論が再噴出

パウンド・フォー・パウンドのスター、井上尚弥は2012年のプロデビュー以来、10年以上にわたり、4階級にひしめく猛者たちをことごとく退けてきた。この日本が誇るスターの戦績はこれまでに26勝0敗(23KO)と完璧であり、2階級で4団体統一王者になった。だが、それでも人は何かしらケチをつけたがるものだ。

元ファイター、メディア、そしてファンのなかには、「ボクシングで名を残したいのであればアメリカで試合をするべきだ」と考える者がいる。あるファイターが他国で伝説を作ったとしても、ラスベガス(あるいはニューヨーク)でスポットライトを浴びない限りは真の成功者ではないというのだ。

元WBC/IBF世界ウェルター級王者ショーン・ポーターは、米ボクシング動画メディア『ProBox』とのインタビューで、「井上の目標がボクシング界でスターになることなら、彼はアメリカに来なくてはいけない」と言い放った。

この物議を醸した発言は『ザ・モンスター』こと井上の神経をイラ立たせたようだ。井上は自身の公式ツイッターで次のように反論した。

スポーティングニュースでは、いくつかの異なる視点からこの問題を検証し、井上がアメリカで試合をするべきかどうかについて「結論」を下した。

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■井上尚弥は日本国外で試合をしたことはあるか?

この話題が奇妙に感じられるのは、井上はすでにアメリカとイギリスで「計4回試合をしている」ことである。パウンド・フォー・パウンドでライバルとされるアメリカ人ファイターたちの誰よりも、井上は海外遠征を経験済みなのである。

2017年9月、井上は米国カリフォルニア州カーソンのスタブハブ・センターで行われた『SUPER FLY』に登場した。初めての海外遠征で、5ラウンドを通して後退を続けるアントニオ・ニエベスを追いかけた結果、6ラウンドで挑戦者の棄権によりWBO世界スーパーフライ級タイトルの防衛に成功した。

3年後、井上は米国ネバダ州ラスベガスで、人気オーストラリア人ボクサーのジェイソン・モロニーと対戦し、7回ノックアウト勝ちでIBF、WBA、そしてリング誌バンタム級タイトルを防衛した。

井上が最後にアメリカでリングに上がったのは2021年6月、やはり舞台はラスベガスだった。ここでも井上は圧倒的な強さを見せつけ、マイケル・ダスマリナスを3回KOで一方的に下した。

井上が英国で戦った唯一の試合は、2019年5月の『ワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ』(WBSS)バンタム級トーナメント準決勝である。スコットランド・グラスゴーで行われた試合で、井上はそれまで無敗を誇っていたマヌエル・ロドリゲスを2回KOに沈め、バンタム級の世界王座を2つ獲得した。

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Naoki Fukuda

■井上尚弥は日本でどれだけ稼いでいるのか?

英紙『The Sun』(ザ・サン)の記事によると、井上は2023年12月の時点で700万ドル(約10億8272万円、1ドル154.68円為替レートで換算、以下すべて同じ)の資産を持っていた。

7月のスティーブン・フルトンを相手にしたWBA/WBO世界スーパーバンタム級統一タイトル戦において、井上のファイトマネーは500万ドル(約7億7328万円)だったと報じられている。

次戦となるルイス・ネリとのタイトル戦で井上が受け取るファイトマネーの金額は公表されていない。しかし、トップランク社のエヴァン・コーン氏がX(旧ツイッター)上で、この試合の入場料収入は「2000万ドル(約30億9326万円)を超える」と述べている。

試合が行われる東京ドームの最大収容人数は約55000人である(関係者によると、角度や視界の面で観戦に不都合がある席は販売しないため、最大4万人台の動員になるとされる)。

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■井上尚弥はアメリカで試合をするべきか?

結論から述べると、答えは「ノー」だ。

1970年中頃、モハメド(モハメッド)・アリは唯一の米国生まれのボクシング世界王者だった。しかし、ほかの世界中の多くのファイターは自国ではなく、アメリカで試合をすることを望んだ。なぜなら当時、米国こそがボクシング界で最も金を稼げる場所だったからだ。

パナマ出身のロベルト・デュラン、ニカラグア出身のアレクシス・アルグエロ(アルゲリョ)、プエルトリコ出身のウィルフレド・ゴメスなど、ボクシング殿堂に名を刻むであろう他国生まれの大物ファイターたちが、確かにボクシングの『メッカ』であるアメリカで大金を稼いだ。

唯一の例外はアルゼンチン人のミドル級王者、カルロス・モンソンだ。モンソンはキャリア100戦のうち、たった1試合のみをアメリカで戦った。

しかし、時代は変わった。アメリカは依然としてボクシングの本場ではあるが、井上をはじめとして世界王者の誕生が相次ぐ日本と、拡大を続けるマッチルーム・ボクシング社が拠点を置く英国の存在は大きくなっている。さらに、サウジアラビアが経済力を背景にビッグマッチを開催することが多くなった。

井上は間違いなく世界最高のファイターであり、パウンド・フォー・パウンドのスーパースターだ。彼の強さは母国で育まれたものである以上、その環境を変える義務は「一切ない」。

原文:Does Naoya Inoue need to fight in the US? Pound-for-pound boxing star is unconvinced
翻訳:角谷剛
編集:スポーティングニュース日本版編集部 神宮泰暁

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Tom Gray is a deputy editor covering Combat Sports at The Sporting News.
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米国・カリフォルニア州在住。慶應義塾大学卒。主に米国でIT関連の会社員生活を経て、趣味のスポーツがこうじてコーチ業に転身。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つ。コンコルディア大学にて、コーチング及びスポーツ経営学の修士を取得。現在は州内の2つの高校で陸上長距離走部の監督と野球部コーチを務める。スポーツ、旅行、文化に関する多くのウェブサイトで執筆中。
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