7月の2大決戦、井上vsフルトンはスペンスvsクロフォードを上回るスーパーファイトとなるか?

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Fulton vs. Inoue
Steven Ryan/Getty Images & Naoki Fukuda

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2023年7月末のボクシング界において、2つの注目カードが立て続けに開催される。25日にはWBC・WBO世界スーパーバンタム級王者スティーブン・フルトン vs. 井上尚弥、そして29日にはエロール・スペンス・ジュニア vs. テレンス・クロフォードの世界ウェルター級4団体統一王座戦が行われる。

ひとつはモンスター井上の新章、ひとつはボクシングファンが長年待たされたウェルター級頂上対決。甲乙つけ難いカードだが、名門誌『The Ring』(リングマガジン)出身で本誌格闘技部門副編集長のトム・グレイが、どちらが「スーパーファイト」にふさわしいのか分析する。

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7月末の注目マッチ、どちらがスーパーファイトにふさわしい?

挑発的に過ぎるタイトルであったかもしれない。私はただWBC&WBO世界スーパーバンタム級タイトルマッチを強く推したいのだ。7月25日、東京の有明アリーナにおいて、王者であるスティーブン・フルトンと挑戦者である井上尚弥が激突する。ウェルター級の主要4団体王座統一戦、エロール・スペンス・ジュニア vs. テレンス・クロフォードのたった4日前である。

多くの格闘技ファンと同様、私はスペンスとクロフォードの歴史的な一戦がついに実現することを大いに喜んでいる。最初に一報を聞いてから数週間たった今でも興奮は冷めない。まだ主要3団体時代だった2005年にザブ・ジュダーが成し遂げて以来、ウェルター級のメジャー全団体ベルト統一(アンディスピューテッド)王者が誕生するのだ。勝利のかたちによっては、勝者は同級の史上最高ボクサーとして認められるかもしれない。

しかし、その一戦は井上 vs. フルトンより重要だろうか。

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実現までが長すぎたスペンス vs. クロフォード

スペンス vs. クロフォードにただひとつだけ難をつけるとすれば、実現するまでにあまりにも長い年月がかかったことだ。2人とも無敗を誇り、現在のパウンド・フォー・パウンドでトップ5の評価を受けるボクサーではあるが、年齢はともに30代中盤であり、全盛期をすでに過ぎていることを否定できない。2015年のメイウェザー vs. パッキャオのときもそうだった。私たちは次のような思いを抱かざるを得なかった。

「もし2人が5年前に戦っていたら、きっとマニー(パッキャオ)はフロイド(メイウェザー)をやっつけていたに違いない」

伝統的に、ウェルター級の歴史に残る大試合はリングに上がった両ファイターが全盛期にあったという点も大きい。シュガー・レイ・レナードは25歳のときに22歳のトーマス・ハーンズを倒した。 ドナルド・カリーは24歳のときに23歳のミルトン・マクローリーを破った。 フェリックス・トリニダードは26歳のときに1か月だけ年下のオスカー・デラホーヤから物議を醸す判定勝利を収めた。

スペンスとクロフォードの場合は両者が20代中盤の頃に対戦することは不可能だった。後者が軽い階級から上がってきたからだ。それでも、この1戦はせめて3年か4年前に実現するべきだった。交渉は長引いてしまったし、自動車事故(スペンス)というアクシデントもあった。どちらの陣営を非難するべきか、は人によって違うだろうが、私としては関わった全員を非難したい。そちらの方が容易だ。

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私も含めてだが、気難しいファンをもってしてこの1戦に関するネガティブな要素を忘れさせる唯一の方法は、スペンスとクロフォードが歴史的な好試合を演ずることだ。私はメイウェザー vs. パッキャオをラスベガスで観戦したときのことをよく覚えている。

「マネー」ことメイウェザーの勝利が宣告され、ペイパービューの巨大な売上とは別に1億8000万ドル(当時のレートで約216億円)の大金を稼いだとき、ラスベガス全体は呆気にとられたものだ。試合はつまらないものであり、メイウェザーだけが大笑いをしていた。

スペンスとクロフォードはそれよりは良い試合をできるだろうか? 1980年代のスーパーファイトのような試合をファンは望んでいる。

ほとんどの場合、スペンスは慎重で防御に長け、正確なパンチを身上とする。エリートレベルのファイターに求められるすべての武器を兼ね備えている。しかし、アグレッシブさにはやや欠けるタイプだ。クロフォードはそれよりは攻撃的であるが、その持ち味をナチュラルな体格で優るスペンス相手に発揮できるだろうか。

この点が懸念材料であり、ある種のファンを失望させることになるかもしれない。スペンス vs. クロフォードは極めてハイレベルなチェスのように見えるかもしれないが、そうした戦いがすべての観客を沸かすとは限らないからだ。

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全盛期同士のフルトンと井上の対決に抱かざるを得ない期待

だからこそ、井上 vs. フルトンにスーパーファイトたる好試合をみせてくれるのではないかという大きな期待がかかるのだ。スペンス vs. クロフォードと同様、この両者とも無敗を誇っている。しかし、この2人はより若く、今まさにキャリアの全盛期にある。28歳のフルトンはスーパーバンタム級統一王者であり、2021年11月にブランドン・フィゲロアを破ってからはパウンド・フォー・パウンドのランク入りも近づいてきた。4月で30歳になったばかりの井上は誰もが認めるパウンド・フォー・パウンド最強のファイターだ。現在、井上に辛うじて比肩できるとすれば、ヘビー級統一王者のオレクサンドル・ウシクくらいだろう。

どのような試合展開になるにせよ、井上 vs. フルトンはファンの期待を裏切らないだろう。フルトンは卓越したテクニシャンであるし、熟練したスイッチヒッターだ。それでもフルトンがこの試合で勝利を得るためには、達人的なボクシングを披露しなくてはならないだろう。井上にはそれを上回るパワーを発揮することが求められる。軽い階級から上がってきたにもかかわらず、井上のパンチ力はフルトンをはるかに凌ぐ。井上のKO率は87.5%であり、王者であるフルトンのそれは38%に過ぎないのだ。どちらに勝利が転ぶかは分からないが、歴史的な一戦になることは間違いない。

さあ、ここまで読んだなら正直に答えてほしい。それでもあなたはスペンス vs. クロフォードの方を好むのだろうか。

原文:This is why Spence vs. Crawford is not the best fight of the week /Text by Tom Gray
翻訳:角谷剛
編集:スポーティングニュース日本語版編集部 神宮

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Tom Gray is a deputy editor covering Combat Sports at The Sporting News.
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