6度のメジャー大会優勝経験を持つ男子ゴルフのフィル・ミケルソン(米国)が、活動自粛を宣言した。ミケルソンはサウジアラビア政府資本によるプロゴルフ新リーグ構想への賛同を表明するなか、PGA側だけでなく、出資するサウジ側を非難するインタビューが公開されたことで、二枚舌の言動が問題となっていた。
男子ゴルフ界では、90年代頃から新リーグ待望論が囁かれてきたが、昨秋、サウジアラビア政府系ファンドが資金投入したリブゴルフ・インベストメント社が推し進める新リーグ構想が表面化し、周囲を騒がせてきた。同社は元世界ランク1位のグレッグ・ノーマン(オーストラリア)をCEOにすえると、昨年11月にはPGAや欧州ツアー機構の反対を押し切り、そのスーパーゴルフリーグ(SGL)構想の土台となるであろうアジアンツアーを2億ドル(約226億円)で買収した。
予選落ちなしの年間12〜14大会のうち10大会を米国開催。移籍契約金だけでも3000〜5000万ドル(約34億6千万〜約57億6千万円)以上という巨額をちらつかせ、PGAに代わる新リーグとして、ビッグネームを引き抜くという噂が業界を駆け巡った。
同社が主催したサウジインターナショナル(2月3〜6日)前後から再び周辺が騒がしくなり、ジェネシス招待(2月17〜20日)開幕前にはクレイマー・ヒコック(米国)が、すでに17選手が新リーグと契約したと発言。春にはツアーの詳細が明らかになるとされた。さらに17日、米国人ゴルフ記者で作家のアラン・シップナック氏によるミケルソンのインタビューを公開されたことで、騒ぎが拡大した。
I shoulda linked to this a while ago: https://t.co/ocQ5eRwenl
— Alan Shipnuck (@AlanShipnuck) February 23, 2022
ミケルソンは同リーグへの賛同を表明しており、インタビューのなかでPGAが大会映像の権利を独裁的に保有し、選手側の権利が侵害されていると主張。さらに8億ドルの使途不明金があるなどと批判した。片や、新リーグに巨額のオイルマネーを投入するサウジに対しても、同国政府によるワシントン・ポスト記者ジャマル・カショギ氏の暗殺などを指摘し、「あらゆる人権を踏みにじってきた記録が残っている」「関与することが恐ろしい」と批判した。それでもなお、サウジのオイルマネーがPGAの独裁的な構図を再構築する最後のチャンスになるだろうと話していた。
いわば"信条に反するが大金だけは貰う"といった内容は業界でも白眼視され、ロリー・マキロイ(北アイルランド)、ダスティン・ジョンソン、ブルックス・ケプカ、ブライソン・デシャンボー(いずれも米国)、ジョン・ラーム(スペイン)らビッグネームらが次々にPGA離脱を否定した。マキロイにいたっては「利己的で無知だ」とミケルソンを公然と非難した。
A Statement from Phil Mickelson pic.twitter.com/2saaXIxhpu
— Phil Mickelson (@PhilMickelson) February 22, 2022
この騒動を受けてミケルソンは声明を発表し、「オフレコの"無謀な"コメントが(本来のインタビュー内容の)文脈からはずれた。私の本心や意図しない言葉を用いたことを心から後悔している」として謝罪した。当該の発言はあくまで業界と選手、ファンのためを思ってのことだったとし、リブゴルフ社についても「ゴルフを熱心に愛し、良くしようとする私の意欲と共鳴する」として擁護。スポンサー関係先に対しては契約の一時停止または終了する選択肢を伝えたという。
実際、長年のスポンサーだったKPMGがミケルソンとの契約解消を発表する一方で、PGAとLPGAのブランドアンバサダーとしての後援は継続するとして、スポンサーとして新リーグにおもねることはないという立場を明確にした。
孤立無援となったミケルソンは「この10年でプレッシャーとストレスによって深刻なレベルでむしばまれ、自身がベストな状態ではなかった」と釈明し、「もっとも愛する人を優先し、自分がなりたい人間になるための時間が必要」だとして、競技活動の自粛を宣言。51歳の名手が引退危機に追い込まれた。