毎年何かしらのルールを改定しているMLBだが、来季から変更されるルールは、ゲームを大きく変える可能性があり、選手会からは不評を買っている。すべては長時間化する試合のペースアップと選手の安全のためだが、観る側も困惑しそうな新ルールについてエドワード・ステラン(Edward Sutelan)記者が解説する。
選手会には不評なルール改定
メジャーリーグ機構は変化を恐れない組織である。ここ数年でも、延長イニングでは2塁に自動ランナーが置かれ、投手への粘着物質取り締まりは強化され、ワンポイントリリーフが禁止された。
2023年からはさらに大きな変化がこのスポーツにもたらされる。
9月9日、MLB競技委員会は投票を行い、いくつかのルール改定を承認した。これにより、試合の行われ方は大きく変わると思われる。投手は投球までに時間制限を受け、内野手はシフトを敷けなくなり、そしてベースのサイズが拡大されることが決まったのだ。
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「これらの変更は試合のペースを速めて、アクションを増やし、そして故障を減らすために考案されました。すべてファンからの大いなる支持を受けている目標です」とMLBコミッショナーのロブ・マンフレッド氏は声明で述べた。
「ここ数年間の入念なテストを通して、マイナーリーグの関係者と広範囲のファンたちは ―― 最も熱心なファンから、それほどでもない人たちまで ―― これらの変更には野球というゲームを改善し、もっと楽しいものにする効果があることを認めました。このプロセスに参加して頂いたメジャーリーグ選手と審判たちに感謝します」
もっとも、これらのルール変更は決定されたものの、それは全員が歓迎したことを意味するわけではない。MLB選手会の代表者らは全員がこのルール改定に反対票を投じた。しかし、競技委員会の内訳は選手会が4人、MLB機構が6人、そして審判団が1人となっていたため、選手たちの反対が投票結果に反映されることはなかった。
Statement on Competition Committee vote pic.twitter.com/8176xAwPZT
— MLBPA Communications (@MLBPA_News) September 9, 2022
MLB選手会の声明(ツイート):
選手たちは毎日プレイしています。試合のルールと規則は彼らの準備とパフォーマンスに影響を与え、最終的にはこのスポーツそのものの公平性を左右します。MLB選手会の代表者たちは競技委員会とのルール交渉に関わってきました。そして委員会が提案したルール変更に対して、具体的で実行可能なフィードバックを提案しました。MLB機構は選手たちがあげた懸念を意味のあるものとして検討しませんでした。そのため、競技委員会に参加した選手たちは全員一致して、守備シフトの禁止とピッチクロック(投球時間制限)の導入に反対票を投じました。
これらの変更によって、2023年からメジャーリーグの試合は現在とは大きく異なるものになるだろう。『スポーティングニュース』はそれぞれの変更によって予期される変化をMLB公式サイトの情報を基に探ってみた。
解説:MLBルール改定
守備シフトの禁止
今回のルール改定で目につくものとしては、これが最も衝撃的なものになる。ジョーイ・ギャロ、コーリー・シーガー、そしてカイル・シュワーバーといった左打者が打席に入ったときに、3人の内野手が2塁ベースより左に移動することを、ここ最近のファンは見慣れてきた。これが許されなくなるのだ。
新ルールでは、内野手は2塁ベースを境に左右2人ずつに分かれなくてはならず、試合中にその位置を変更することはできない。また内野手は内野のダート部分に両足を置かなくてはいけない。つまり、今までのように内野手が浅いライトの守備位置につくことはできなくなる。
もし内野手がこのルールに違反すると、打者が出塁しない限りは1ボールが与えられる。打者が犠牲フライまたはバントを成功させたときは、攻撃側の監督は打者が1ボールを得て打席に戻るか、あるいは犠打成立のまま試合を続行するかを選択することができる。
守備シフトの禁止は監督たちを悩ませるだろう。
ここ数年間で守備シフトの利用は劇的に増えた。『Baseball Savant』によると、全打席でチームが守備シフトを利用する率は2015年では9.6%でしかなかった。それが2020年には30%を越え、2022年はここまで34.6%である。守備シフトの使用率(Shift usage)が高まると、BABIP(グラウンド内に飛んだ打球が安打になる率)が低くなる傾向がある。
ピッチクロック
ここ数年、MLB機構は常に試合のペースを速める方法を探している。ピッチクロック(投球時間制限)はまさにその目的のために導入される。
新ルールでは、投手は走者がいる場面は20秒以内、走者がいない場面では15秒以内に投球しなくてはいけない。タイマーは投手がボールを手にした瞬間から開始される。捕手はタイマーが残り9秒以下になる前に、ホームベース後方にいなくてはならない。
打者が交代する場面では30秒、そしてイニング交代か投手交代の場面では2分15秒が与えられる。投手側にピッチクロックの違反があった場合は1ボールが宣告される。
それだけではない。牽制球の回数もこれからは制限を受けることになる。投手はこれまでのように何回も続けて1塁に牽制球を投げることはできなくなるのだ。新ルールでは、投手は1打席中2回までは牽制のためにプレートから足を外すことができる。その度にピッチクロックは20秒に戻される。
しかし、3回目の牽制球では、走者をアウトにしない限り、投手はボークを宣告される。例外は走者が進塁に成功したときだけだ。その場合は牽制球の制限も2回に戻される。
ここで制限されるのは牽制球だけではない。投手が間を置くためか、あるいは息を入れるために、プレートから足を外すことも、1打席中2回までに制限されるのだ。新しいボールを要求するときは、ピッチクロックが残り9秒以下になるまでにしなくてはいけない。
MLBは、すでにチームがマウンドに集まる回数をイニング1回に制限している。2回目は投手交代のときに限られる。新ルールによって、マウンドでの協議時間は30秒までになる。そのタイマーは監督、コーチ、捕手、あるいは、ほかの野手が投手に近づくために持ち場を離れた瞬間から開始される。
投手が怪我をしたときは審判は協議時間を延長できる。またトレーナーが診断する場合の時間は無制限となる。もし捕手が投手の元に行き、そのあとで監督やコーチがマウンドに向かう場合、協議時間は20秒に戻される。9イニング目に限り、マウンドに集まる回数は増やすことを許される。
投手だけでなく、打者にも新たな制限が課せられる。ピッチクロックが残り8秒以下になる前に、打者は打席に入らなくてはいけない。そしてタイムを求めることができる回数は1打席中1回のみとなる。このルールに違反した打者は1ストライクを宣告される。打者が打席に向かう際のテーマソングも10秒までしか流すことができなくなる。
試合の長時間化はここ数年野球界全体で大きな課題になってきた。現在では平均試合時間が3時間を越えてしまっている。2000年代中頃でさえ、2時間40分くらいであったのにである。
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ベースの拡大
これは小さな変更かもしれない。ベースのサイズがここ最近の15インチ(約38センチ)四方から18インチ(約46センチ)四方にまで拡大されるのだ。
ベースを拡大することには2つの目的がある。ひとつは選手の安全を図るため、もうひとつは攻撃の機会を増やすためである。ベースが大きくなれば、走者と野手が足を置くスペースが増える。その結果、選手同士が衝突する危険を減らすことができる。
さらに、ベースが大きくなることは、理論的にはメジャーリーグの盗塁数が増えることに繋がるはずである。走者にとっては、走る塁間距離がやや短くなり、スライディングでベースに到着するスペースが増えるのだから。もっとも、このベースを実際に試した2021年の3Aでは、全体の盗塁数には大きな変化はなかった。
原文: MLB rule changes, explained: Pitch clock, shift ban and more coming to baseball in 2023
翻訳:角谷剛
編集:スポーティングニュース日本版編集部