メジャーリーグベースボール(MLB)はその長い歴史の中で、賭博に関連したトラブルを幾度か経験してきた。近年のスポーツ賭博の盛り上がりを考えれば、MLBが直面した問題は少なかったほうだと言えるかもしれない。
しかし2024年シーズン開幕を目前に控え、今のMLB最大のスター、大谷翔平がこの問題に巻き込まれた。MLBにとっては2000年代に表面化したステロイド問題以来の大きなスキャンダルに発展する可能性もある。
大谷翔平の元通訳・水原一平氏は、大谷の金を盗み、自分が賭博で作った負債の返済に充てていたとの嫌疑をかけられている。このことで水原氏はドジャースを解雇された。一方、大谷はこの件に関する一切の関与を否定、今現在もプレーを続けている。
MLはすでに水原氏と大谷をめぐる嫌疑について調査を始めている。その結果、大谷が処分を受けることはあるのだろうか?ここでは、大谷の状況について最新情報を伝えていく。
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MLBが大谷翔平を調査する理由
MLBが大谷翔平を調査する理由は、もともと水原氏に端を発している。水原氏が、FBIの捜査を受けている南カリフォルニアのブックメーカー、マシュー・ボイヤー氏と繋がっていたからだと、米紙『ロサンゼルス・タイムズ」は3月20日(現地時間)に報じている。
この記事の影響でドジャースを解雇された水原氏は当初、大谷が合意の上で自分の賭博の負債を肩代わりしてくれたとESPNの取材で語っていた。だが、後になって水原氏はこの発言を撤回、大谷は送金について全く知らなかったとメディアに語っている。
「チームの関係者の皆さん、僕自身もそうですけど、ファンの皆さんもここ1週間ぐらいですかね、厳しい1週間だと思うんですけども、メディアの皆さんも含めて、我慢とご理解をしていただいたのはすごくありがたいなと思っています」と、大谷は3月25日(現地時間)に開かれた記者会見でメモを読み上げた。
「僕自身も信頼していた方の過ちというのを、悲しくというかショックですし、今はそういうふうに感じています」
「僕自身は何かに賭けたりとか、誰かに代わってスポーツイベントにかけたりとか、それをまた頼んだり、ということはないですし、僕の口座からブックメーカーに対して、誰かに送金を依頼したことももちろん全くありません」
「結論から言うと、彼が僕の口座からお金を盗んで、なおかつみんな僕の周りもそうですね、みんなに嘘ついていたっていうのが、結論を言うとそういうことになります」
水原氏は、大谷の銀行口座へのアクセスを持ち、その口座からボイヤー氏に負債返済のために送金した嫌疑をかけられている。そのため、送金の際にボイヤーと大谷の名前が紐づくことになった。
大谷サイドは自らを「巨額の窃盗の被害者」だとしている。その発言を裏付けるように、ボイヤー氏の法定代理人、ダイアン・バス氏もボイヤー氏と大谷にはつながりがなかったとコメントしている。
「(ボイヤー氏は大谷と)話したこともなければ、会ったこともメールしたこともない」とバス氏は米紙『ワシントン・ポスト』の取材で答えている。
「(ボイヤー氏が)唯一話したこと、あったこと、メールしたことがある人物は一平だけです」
ボイヤー氏は水原氏が誰かも知らなかったと言う。ただ、水原氏には大谷とのつながりがあったので、巨額の負債が積み上がっても、水原氏に賭けを続けさせていたのだった。
大谷サイドは警察に届けを出しており、ボイヤー氏、水原氏に対しての捜査が行われている。
一方で、本件に関するMLBの調査も進行中だ。新たな情報が明らかになり次第、本記事もアップデートしていく予定だ。
MLBのギャンブルポリシー
アメリカのスポーツ文化の中でギャンブルが広く浸透していくにつれて、選手、リーグ関係者がスポーツ賭博で捕まるケースも増えてきた。今回の大谷と水原氏の一件が明るみに出るまで、MLBはこうした世の中の変化にうまく対処してきたと言えるだろう。
MLBのギャンブルに対するポリシーは、選手、審判、リーグおよびチームの関係者・従業員が直接的な関係の有無にかかわらず、野球賭博を行うことを禁止している。
直接的に関係のない試合への賭博が発覚した場合、1年間の資格停止が課せられる。もし直接に関与のある試合で賭博を行った場合には、永久的な資格停止処分が課せられることになる。
記者会見での大谷の声明にあった通り、賭博はあくまで水原氏が行なっていたものであり、水原氏が言うように、野球賭博はしておらず、あくまで他のスポーツへの賭けだったということであれば、大谷に対してはいずれの処分も該当しないだろう。
MLBのギャンブルに対するポリシーにはもうひとつ、ボイヤー氏のような違法なブックメーカーに関する規定がある。そこでは、選手、審判、リーグおよびチームの関係者・従業員が違法なブックメーカーを通じて賭博をすること、違法なブックメーカーに手を貸すことを禁止している。
違法なブックメーカーに手を貸した場合は1年間の資格停止が課せられる。違法なブックメーカーを通じて賭博を行った場合、『その行為の事実ならび状況』に基づいて、コミッショナーの裁量によって処分が下される。
関連記事:MLBのギャンブルポリシーはどう規定されている?|水原元通訳賭博問題
MLBにおける過去の賭博関連事件
MLBでは近年、賭博に関するトラブルで大きな問題となるものはなかった。それでも、似たようなケースがいくつかあったのが確かだ。
例えば、2015年にジャレッド・コサート(元マイアミ・マーリンズ投手)が違法なブックメーカーを通じて賭博を行ったことで罰金を課せられている。また2021年には、マイナーリーグのピーター・ベイヤー投手が野球賭博を行ったことで資格停止となり、2023年シーズンもその処分は継続している。
賭博絡みのトラブルで一番有名なのは、MLBの最多安打記録保持者ピート・ローズ(元シンシナティ・レッズ)の一件だろう。1980年代、ローズがレッズのプレーイングマネージャー・監督を務めていたときに、ローズは自らのチームへの賭けも含めてMLBの試合での賭博を行っていたことから永久追放処分を受けている。
もう一つ大きな事件として残っているのが1919年の『ブラックソックス事件』だ。これはシカゴ・ホワイトソックスの8人の選手が賄賂を受け取って、1919年のワールドシリーズで八百長を行なった事件で、関与した8人の選手たちは永久追放処分を受けた。
このほかにも賭博をめぐる問題はいくつか起こってきたが、ピート・ローズの一件、そして『ブラックソックス事件』は世の中を震撼させる大事件だった。
大谷の件は自ら説明した会見をもって収束するのか。それとも今後何らかの処分が下されるのか。MLBの調査結果が注目される。
※この記事はスポーティングニュース国際版の記事を翻訳し、日本向けに一部編集を加えたものとなります。翻訳・編集:石山修二