[杉浦大介コラム第97回]八村塁 開幕1か月総括

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八村塁 Rui Hachimura Wizards

試行錯誤の開幕1か月

「NBAという世界でもトップレベルにあたるリーグでプレイできていて、僕としてもすごく嬉しいですし、いろいろ学んでいます。NBAの生活というのも違うところがあるので、だんだん慣れてきたなというのは感じてきました」。

開幕から1か月が経った11月22日、キャピタルワン・アリーナでのシャーロット・ホーネッツ戦を終えた後、ワシントン・ウィザーズの八村塁が残したそんな言葉には実感がこもっていた。

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夢舞台でのキャリアをスタートさせた八村にとって、この1か月は大事な適応期間だったのだろう。いや、本人だけではなく、チームメイト、コーチ、関係者、そして取材するメディアまで含め、ウィザーズの周囲の多くの人間にとっても“学ぶ時間”だったという印象も残る。

これほどまでに一国の莫大な期待を背負った選手はNBA史上でも多くはない。比較できるのはヒューストン・ロケッツに入団した当時のヤオ・ミンくらいか。対処法の青写真がほとんど存在しないなかで、受け入れる側も、追いかける側も、最初の1か月は試行錯誤の日々だったように思えるからだ。

ルーキーながらチーム最大の注目を浴びるなかで、序盤戦の八村は間違いなく及第点と呼べるプレイを見せた。開幕直後の13戦中7戦で15得点以上をあげたウィザーズの新人は1993年のトム・ググリアータ以来。派手さはなくとも非常に堅実な働きを続け、おかげで先発起用に疑問を呈するような声はまったく聞かれなかった。

「彼のミッドレンジ(からのシュート)を気に入っている。良いシュートだからね」。

ウィザーズのスコット・ブルックス・ヘッドコーチがそう述べていた通り、特に序盤戦ではミドルジャンパーの精度が盛んに喧伝された。24日のサクラメント・キングス戦を終えた時点で、得意とするドリブルからのプルアップシュートの成功率は54%。3ポイントショット全盛の現代では2ポイントのフィールドゴールは効率的とはみなされないが、これだけの高確率で決めればとりあえず文句は言われることはない。

もちろんルーキーなのだからアップ&ダウンはある。特に11月6日のインディアナ・ペイサーズ戦ではFG5本中成功なしで無得点に終わった。しかし、これで気落ちすることなく、その2日後のクリーブランド・キャバリアーズ戦、13日のボストン・セルティックス戦ではより積極的に攻め、2試合連続で21得点。いわゆる“バウンスバック”ができることを示し、このあたりでチーム内のリスペクトを勝ち取った感があった。

今季の惨敗が予想されたウィザーズは、27日のフェニックス・サンズ戦に勝ったところで6勝10敗とやはり苦しんでいる。それでもオフェンシブ・レイティング(オフェンス効率=100ポゼッションあたりの平均得点)はリーグ2位(113.5点)を記録。チーム一丸となった全力プレイで、数多くの接戦を展開してきたことは評価されていい。前評判以上の頑張りを見せてきたチームに、ドラフト1巡目全体9位指名のルーキーも着実に貢献してきたことは間違いない。

 

開幕1か月で見えてきた八村塁の課題

もっとも、そんな八村もここに来て最初の壁にぶつかっている印象もある。11月24日のキングス戦、26日のデンバー・ナゲッツ戦、27日のサンズ戦では3試合連続一桁得点。この3戦ではFGも合計25本中7本の成功にとどまるなど低調だった。少々気になるのは、22日のホーネッツ戦以降は3戦連続で最終クォーターにプレイタイムをもらえず、サンズ戦も4分のみの出場だったことだ。

「塁には多くのゲームで終盤にもプレイして欲しいが、出場しないゲームもある。彼はハードワークを続け、出場時間も勝ち取った。しかし、第4クォーターは状況次第だ。スターターだからといって何かが保証されるわけではない。私は彼のプレイと競い合う姿勢が好きだが、第4QのプレイタイムはDB(ダービス・ベルターンス)や他の選手たちと争わなければいけない」。

ブルックスHCのそんな言葉から、いきなり二桁以上の平均得点をあげてきたルーキーも、まだクラッチタイムを任されるほどの信頼を得ているわけではないことが伝わってくる。また、24日のキングス戦後のブルックスHCのコメントは、八村の課題をわかりやすく指し示していた。

「マッチアップの関係で(最終クォーターに)出ないこともある。ディフェンスでもっと相手を釘付けにしてほしいし、ポンプフェイクにもひっかからないようにしてほしい。塁も第4Qにプレイすることになるが、今夜はその機会がなかった」。

実際に八村のディフェンスはまだ高水準と言えず、一瞬の隙をつかれて抜かれてしまうシーンが散見する。デマー・デローザン(スパーズ)、ハリソン・バーンズ(キングス)といったベテランのショットフェイクに惑わされてきたのであれば、勝負所でベンチに下げられても仕方ない。

また、オフェンス面では、定評あるミドルレンジのプレイが徐々に研究されていることに加え、3Pの成功率が22.2%(27本中6本成功)に終わっていることが、終盤の出場機会を考えた際にはやはりネックになっているのだろう。

典型的な“ストレッチ4”(アウトサイドシュートに優れるビッグマン)であるベルターンスのほうが、ブラッドリー・ビール、トーマス・ブライアント、アイザイア・トーマスといった他の主力選手のプレイスタイルとより綺麗にフィットする。特に相手守備がタイトになる終盤、ミドルレンジが得意な八村より、他のスコアラーたちにスペースを開いてくれるベルターンスのようなシューターが重宝されることが多いのは必然だ。だとすれば、もともと課題とされてきた3Pが向上しない限り、八村の第4Qのプレイタイムは今後も限られてくるかもしれない。

とはいえ、こんな現状を必要以上に悲観的に捉えることもない。ルーキーに課題があることは当然で、今はまだコート内外で経験を積む段階。まずはミドルレンジにもスペースがあるゲーム前半に確実に貢献し、あとは終盤の限られた出場時間内と、ベンチからゲームを見る間にも多くを学んでいけば良い。その上で、ロングジャンパーの向上に取り組み、今後に備えていくべきだろう。

「(八村は)よい若手選手で、間違いなく大きなポテンシャルがある。彼にとって、経験が重要になっていく。今季、ルーキーながら多くの時間をプレイすることは、そのキャリアに間違いなく好影響を及ぼしていくはずだ」。

9月のFIBAバスケットボール・ワールドカップにアメリカ代表の一員として出場し、そこでも八村とマッチアップしたバーンズは、24日の試合後にそんな言葉を残していた。聡明な27歳の言葉通り、実際に1年目にまとまった出場時間を得ることには非常に大きな意味がある。そこで課題も見つけ、時に苦しみ、活路を見出していくというプロセスは未来に生きてくる。

八村のNBAキャリアはまだ始まったばかりなのだから、焦るべきではない。再建中のウィザーズではこうして時間をかけて学ぶことが許されるのだから、21歳のルーキーにはやはり適した環境と言えるのだろう。

 

■八村塁 スタッツ(現地11月27日時点)

16試合出場(すべて先発出場)
1試合平均26.8分
1試合平均12.1得点
1試合平均5.3リバウンド
1試合平均1.5アシスト
1試合平均0.8スティール
1試合平均0.2ブロック
フィールドゴール成功率47.7%
3ポイントショット成功率22.2%
フリースロー成功率83.3%

八村塁 選手プロフィール

著者
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東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。
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