ここ数年で、パワーフォワードの役割には大幅な変化が見られる。前を向いた状態からオフェンスを生み出すことができる近代的なスウィングマンを求めているロッタリーチームは、日本の富山県出身である八村塁をチェックするべきだ。
203cm、104kg、そして218cmのウィングスパンという、現代NBAの4番(=パワーフォワード)に必要とされているサイズと長さを兼ね備え、3番(=スモールフォワード)をプレイするスピードとペリメーター(3ポイントライン内側のミッドレンジエリア)でのゲームプレイも持ち合わせている。それによって、より細いウィング相手にはミスマッチを生み出せるのだ。八村の多才さこそが、彼を魅力的な将来有望な選手である所以であり、各チームのフロントは彼をオフェンスに組み込む無限の可能性に舌なめずりするだろう。
スモールフォワードで起用すれば、相手をポスト付近まで連れ込み、優れたフットワークから繰り出されるスピンでかわし、楽々とレイアップに持ち込める。パワーフォワードで起用し、彼よりも遅い選手を相手にすれば、稲妻のように素早い一歩目で抜き去るか、サイドステップでスペースを生み出し、絹のように滑らかなミッドレンジからのジャンプショットを披露できる。オフボールでは、賢いカットで油断しているヘルプディフェンダーから楽々とダンクを叩き込める。
ディフェンスに関してはまだポテンシャルを最大限に活かせていないものの、そのバネのような身体能力と十分な長さを考慮すると、正しいコーチと状況が組み合わされば、優れたウィングディフェンダーにだってなることも可能だ。
アメリカにやってきたのはわずか3年前ながら、大学では毎シーズン顕著な成長を見せており、NBAでもその成長が続くと期待するほかないだろう。
いくつかのロッタリーチームは、ひとつかふたつの突出したスキルを持った選手を望むかもしれないが、八村の可鍛性を買うチームも少なくないだろう。そのため、彼のドラフトされる予想順位はほかの選手よりも広くなっているが、私は彼が早めに指名されると予想している。
八村塁の強み
ミスマッチを作り出し、そこを突くことが近代NBAの主流である。そんななか、八村は自分よりも小さな選手でも大きな選手でも、アドバンテージを得ることができる。
下半身がとても強く、そこから生み出される力強いファーストドリブルによって、彼はいつでもドリブルで敵陣に突入することができる。NBAレベルのディフェンダーは彼のスピードを抑えることはできるかもしれないが、それでも接触してスペースを作り出す筋力を持ち合わせている。
レーンに入り込めば、その長さと強さの両方を使いこなした多様なフィニッシュを持ち合わせている。さらにゴール下まで行かない判断をしたときは、過小評価されているフローターも打つことができるのだ。もしディフェンダーが勢いに乗っている八村に対して下がって守る選択をすれば、ミッドレンジからのジャンプショットを打つことができるため、彼のドライブはいつでも脅威になり得る。
さらに、八村がオフェンスを生み出すことができるのがペイントのローポストだ。どちらの手からも簡単にフックショットを決めることができる。相手のバランスを崩し、身体を使って多くのファウルを引き出すことができ、フリースロー成功率も74%あるため、効率よく得点を重ねられる。多くのチームがスウィッチで守る今日、八村はその巧みなポストプレイと1対1のスキルを駆使してスウィッチでついたガードを懲らしめることができるので、相手チームのディフェンス戦術を大きく歪めることができる。
試合の流れのなかで得点できることも八村の強みであり、彼のためのプレイコールでなくても得点することができる。トランジションではほかの選手が見えていないバスケットへの道筋を見つけ出し、相手よりも早くバスケットへと向かえる。ボールを持っていないときの動きが非常に優れており、昨シーズンはカットから多くを生み出した最も生産的な大学選手のひとりとして活躍した。先進的なコーチであれば、彼が複雑なオフェンスシステムのなかでも輝くのが見えているだろう。
八村はNBAでも高いレベルのスコアラーになると予想され、得点力がドラフトで最も求められているスキルであることを考えれば、需要の高い選手となるだろう。
八村塁の弱み
オフェンス面では無限に好材料がある八村だが、ディフェンス面ではまだ上達する必要がある。オフェンスでは楽にプレイしているように見えるが、ディフェンスでは迷子になっていたり、ローテーションに苦労している場面が散見される。プレイがごちゃごちゃになり、ディフェンス側にある程度の読みが必要とされる場面で、危機にさらされている。1対1のディフェンスでは、しっかりと足を横に動かし、ドライブを止めることができるが、チームディフェンスをまだしっかりと把握できておらず、これからはNBAレベルでそれを学ばなければならないという試練が待ち構えている。
彼の3ポイント成功率42%という数字を見て、スペーシングできる能力があると考えがちだが、この数字は見掛け倒しなものだと私は考えている。昨季の37試合で彼はわずか36本しか3Pショットを放っておらず、良い確率で決めてはいるものの、その低い試投数と試合中に打つのを躊躇していたのを見ると、まだ自信を持って打てるシュートではないのだろう。ミッドレンジからのシュートフォームは完璧で、フリースローも上手いことを考えれば、いずれ頼れる3Pショットを手に入れることも考えられる。しかし、現時点での材料では、まだそれが確実であるとは言い切れない。
さらに懸念材料としてあげられる可能性があるのは、八村が大学シーンを圧倒したプレイスタイルがNBAでも通用するかどうかというものだ。彼のオフェンスの多くは、NBAではあまり見ることがなくなってきたポストアップから生まれたものだった。さらに、ゴンザガ大学が格下相手に猛威を振るっているときに、その熟練したオフェンスから生まれるバックドアカットやドロップパスの恩恵を受けていた。トランジションでは子供を相手にする大人のように見え、その能力が高いことは間違いない。しかしそれだけでなく、ハーフコートでもしっかりとオフェンスを生み出せる選手である保証をスカウトは欲しがるだろう。
八村のドリブルからのオフェンスの多くはNBAでも通用すると私は思っている。しかし、大学のときほど簡単に打てるチャンスは減るはずだ。多くのフロントオフィスにとって、そこをどう評価するかによって、八村の評価は変わってくるだろう。
ドラフト予想指名順位: 6〜12位
想定されるNBAでの役割: オフェンスのセカンドオプション
比較対象となるNBA選手: サディアス・ヤング(インディアナ・ペイサーズ)
原文: NBA Draft 2019: Rui Hachimura scouting report, strengths, weaknesses and player comparison by Eric Fawcett/NBA Canada
翻訳: 大西玲央 @ReoOnishi