ユドニス・ハズレムは、マイアミの象徴だ。NBAキャリア17年の大ベテランは、地元のチームのロスターになくてはならない存在で、そこに彼がいなかったときを思い出すほうが大変だ。
マイアミ高校からフロリダ大学に進学し、それからマイアミ・ヒートでプロキャリアを始め、3度の優勝(2006、12、13年)に貢献。ハズレムのバスケットボールライフは、いつだってフロリダ州にある。
ハズレムは、ヒートのロッカールームを支える屋台骨でもある。オールルーキーセカンドチームに選出された1年目の2003-04シーズンから、良いときも、悪いときもそうだった。ドラフト外で加入しながら、彼は通算リバウンドで球団歴代1位の記録を保持するNBA史上初のケースにもなった。
逆境にも負けない精神がヒートファンの心を掴み、コートで恐れずにプレイする姿勢により、世代を超えたチームメイトから慕われ、同じNBA選手からも尊敬されている。
2019-20シーズンのサプライズチームと言われているヒートにおいて、ハズレムはチームを引っ張る年長者だ。底辺からチームを引っ張った選手を挙げるとすれば、それは彼以外に考えられない。
先日NBA.comのインタビューに応じたハズレムが、これまでの歩みなどについて語った。
進化できなければ、居場所はない
ーーこのリーグで長期間プレイし、1つの球団に所属している。あなた以外に、地元のチームとここまで密接な選手は思い浮かばない。
ハズレム:幸せなこと。毎日地元で生活していることには、良い部分も、そうではない部分もある。絶対になくならないと思っていた友人を失ったかと思えば、思ってもいなかった友情が育まれることもある。自分には縁がないと思っていた状況や場所にも関わるようになった。ただ、誤解してもらいたくはなくて、まったく異なる境遇にいる人たちとの繋がりも強い。彼らに対するリスペクトの気持ちは今も持っている。自分は、良し悪しにかかわらず、いつだって事の中心にいる。それが悪いというわけではなくて、人の立場に関係なく、自分は友人と交流している。
ーー地元に優勝をもたらしたことについては、どう思う?
ハズレム: マイアミに関して言えるのは、自分たちは非常に誇りを持っているということ。マイアミ出身であることを誇れるし、この素晴らしくて、美しい街での出来事も誇れる。それに加えて、自分たちがベストとも言える。何らかの分野において、自分たちがベストと言える人は多くない。何かをやって、何らかの結果を残せたとは言えても、1つの分野において世界一と言える人は少ない。この街には、世界でベストなバスケットボールチームがあると言える。これは球団、街にとって大きな功績なんだ。マイアミにとっての誇りであり、イケてることでもある。
ーーこのリーグで長くプレイしている間に、多くの選手の入れ替わりを見てきたと思う。長くやれている秘訣は?
ハズレム: 進化することだね。進化できなければ、居場所はない。進化するか、それとも消えていくかという言葉は、何年も前にコーチ・スポ(エリック・スポールストラ・ヘッドコーチ)から言われたこと。当時の自分は理解しようとしなかった。でも、進化というのは、バスケットボールのコート上での話に限らない。オフコートでの話でもあって、例えばリーダーとして、プロフェッショナルとして、父親として、それ以外の部分での進化でもある。自分は、成長しないといけなかった。いつだって、それが自分の義務だと思っている。次の試練を心待ちにしていたし、自分を追い込むため、乗り越えないといけない試練を楽しみにしていた。成功を収められた時期もあった。でも今は、周りを追い込むこと、チームが考えるプログラムを推し進めること、球団、このチームの伝統について意識を集中するようにしている。
ーーあなたは、この十数年でヒートの浮き沈みを見てきた。そして今、チームは再び浮き上がろうとしている。現在のチームの基盤も以前と変わっていないが、伝統を継承することが大切と考えている?
ハズレム: 自分たちは、そう信じているよ。心の底から信じている、やり方はほかにもあるかもしれないけれど、これが自分たちのやり方だ。全員が同じ考えを持って取り組む。基礎となる考えがあって、ルールやガイドラインがある。自分のような選手が、それらを実行に移す。コーチからのメッセージや、コーチの仕事も重要だけれど、チームの伝統を体現し、それを伝えようとする選手がロッカーにいると、いないのとでは大きな違いだ。
それが自分なんだ。日々、体現している。試合に出場する云々ではなくて、努力している。この伝統、献身的な姿勢が何をもたらしてくれるかを示している。正しい形で努力すれば、どういう結果になるかを証明している。誰だって、献身的にならないといけなくなるまで、献身性について言いたがる。実際にそのときを迎えると、「え? 自分が?」となる。そうではなくて、やらせないといけないんだ。誰だってやらないといけない。ブロン(レブロン・ジェームズ)も、Dウェイド(ドウェイン・ウェイド)も、CB(クリス・ボッシュ)も、自分たち全員が王者になるために献身的にやらないといけなかった。それを伝えるのも大事だし、そういう生き方を実践するのも大事なんだ。
短期の目標ではなくて、長期の目標について考えている
ーー若い選手たちに何を伝えている? 試合前、先発の選手に最後に話をする存在だけれど、どういうメッセージを伝えている?
ハズレム: 必ず最後に、「自分たちには力も、必要なものも揃っている。俺たちより優れたチームはいない」と言っている。その前にはいろいろな話をするけれど、必ず最後は同じメッセージを伝えている。心から信じていることだからね。球団を支えている全員が重要な存在だ。さらに重要なのは、日々大変な仕事をこなしているロッカールームのスタッフなんだ。
ーー先ほど、あなたやレブロン、ウェイド、ボッシュが実践したという献身性について話してくれた。あの時代以降のチームはどうだった?
ハズレム: 大変だった。屈辱的だったね。でも、自分はそれ以前にも底辺を経験したことがあった。だから、生き残るための直感が働いた。試練に直面したとき、どん底を味わったとき、「つらすぎる」とか、「大変すぎる」とか、自分はそういう不満を絶対に口にしない。必ずなんとかしてみせる。それが自分という人間なんだ。彼らのような選手が退団した後も、自分はこのグループの力を信じていた。コーチングスタッフが伝統を伝え続けて、選手たちを次のレベルに引き上げてくれると信じていた。自分はいつだって信じる気持ちを持っているし、試練を楽しみにしている。彼らが退団したときは、自分がリーダーとして成長するチャンスだと思った。より自分の言葉、このチームの伝統を伝えられる機会になると思った。何よりもそれが必要な時期だったんだ。
ーーこれまでに築き上げてきたものから離れる可能性を探ったことは?
ハズレム: 考えなくはない。ただ、引退すれば、現役時代はもう取り戻せない。ここ数年は、自分がチーム内で精神的な役割を担っているのを、周りも理解している。それまでとは異なる役割や、プレイする機会を求めて、長年在籍したチームを離れた選手を何人も見てきた。デイビッド・ウェストがインディアナ(ペイサーズ)を離れるなんて思いもしていなかったし、ビンス・カーターがトロント(ラプターズ)を離れていろいろなチームでプレイする姿も想像していなかった。トニー・パーカーがサンアントニオ(スパーズ)を離れることもね。
自分と同じくらい長くプレイして、退団なんて考えてもいなかったのにチームを離れる選手だっている。その気持ちはわかるんだ。選手なら、いつだってプレイしたいもの。でも、球団が進む方向が変わることだってある。これは、球団や選手が悪いのではなくて、このビジネスのあり方なんだ。自分にとっては、地元、この街にいることはバスケットボールよりも大事なこと。想像もしていなかった形でこの街に影響を与えられている。それは、優勝して、リングを勝ち取ったのと同じくらい誇りに思っていることなんだ。自分はいつだって、より大きな目標を見据えている。短期の目標ではなくて、長期の目標について考えている。
自分の意思で誰よりも何かを犠牲にしたチームが勝つ
ーー今季は開幕から球団史上最高のホーム戦績を残せている。その一方で、2010-11シーズンのように、9勝8敗という苦しいスタートを切ったこともあった。HCの解任や、過剰に反応するのは簡単だが、球団はそうしてこなかった。パニックムーブを起こさないのは、パット・ライリー、もしくはオーナーの影響?
ハズレム: 自分たちがどういう存在なのかはわかっているんだ。それを否定したりしない。誰にも当てはまることではないのも理解しているけれど、それが自分たちなんだ。楽な道は進まず、険しい道を選んで、努力する。これまでに築いた基盤、伝統に頼って、乗り越えていく。
ーーこれまでで、コートで楽しいと思えた瞬間は?
ハズレム: ブロン、CB、Dウェイドが揃ったときに海軍基地で張ったトレーニングキャンプ初日かな。楽しかった。競い合うという部分においても、レベルアップするという部分においてもね。クリス・ボッシュがトロントで何を成し遂げたかなんて、どうでもよかった。ここで彼に何ができるかを見たかった。平均20得点なんてどうでもよかったし、自分と82試合を通じて上手くやる必要もなかった。Dウェイド、それにレブロンも同じ考えだった。彼らは互いに追い込んで、毎日の練習で1対1をしていた。自分の人生において、一番競争レベルが高くて、楽しいトレーニングキャンプだった。
球団のリバウンド記録をミルウォーキー(バックス)とのホームゲームで更新できたときも楽しかった。とても大きな記録だったからね。
それに、優勝したときもだね。そのためにやっている。プレイオフ時期には携帯を見なくなるし、家族とも離れて一人の時間が増えるようになる。優勝するためには必要なことなんだ。優勝するには、何かに取り憑かれたようにならないといけない。ハードワークをこなすベストチームが優勝できると思われるかもしれないけれど、必ずしも優勝するのがベストチーム、ハードワークを実践したチームになるとは限らない。優勝するために、自分の意思で誰よりも何かを犠牲にしたチームが勝つんだ。優勝は、人生が変わるくらい大きな出来事だ。優勝するには、プレイオフ時期にライフスタイルを変えないといけない。普段のように、友人と夕食に出かけて、テレビを見るような生活にはならなくなる。プレイオフモードに入ると、普段とは異なる試合になるからね。
原文:The Q&A: Udonis Haslem a 'living, breathing example' of Heat culture by Sekou Smith/NBA.com(抄訳)