[宮地陽子コラム第109回]試合中の修正力を高く評価されるタロン・ルーHCのドンチッチ対策

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タロン・ルーHC(ロサンゼルス・クリッパーズ)とルカ・ドンチッチ(ダラス・マーベリックス)
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コーチとしても発揮されているルーHCの人間力

ロサンゼルス・クリッパーズのヘッドコーチ、タロン・ルーは、現役時代から人脈が広く、友達が多いことで知られていた。ケビン・ガーネットやチャンシー・ビラップスをはじめ多くのスター選手たちから信頼されていて、一時は「あの選手と契約したければルーを取れ」とまことしやかにささやかれたほどだ。

そんな人間力はコーチになってからも変わりない。つい最近、公開されたサージ・イバカ(現ミルウォーキー・バックス。撮影時にはクリッパーズ所属)のYouTube番組"How hungry are you"では、イバカとポール・ジョージ(クリッパーズ)が「Tルーとは、コーチと選手の繋がりではなく、ビッグブロ(兄貴)のような関係」「そうそう、Tルーと話しているときは、コーチと話しているという感じがしない。仲間と話しているようだ」と、口をそろえてルーHCを称賛していた。

アシスタントコーチ時代ならともかく、時に冷酷な判断も下さなくてはいけないヘッドコーチになっても選手たちに仲間のようだと思わせるのは、まさにルーHCの人望だろう。

タロン・ルーHC(ロサンゼルス・クリッパーズ)
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人望が厚いだけでないルーHCの「修正力」

もっとも、ルーのコーチング力は単に人望や選手の信頼だけではなく、戦術面でも秀でている。今シーズン前のGMアンケートで試合中の修正力があるコーチとして全体の37%の最多票を得ていたことからも、それは明らかだ。ルーHC自身、いろいろと試して、特定の相手に対する戦い方を考えることにコーチとしてのやりがいを感じているようだ。

今シーズンは、レギュラーシーズン中から、そんなルーの修正力が発揮されている。何しろ、今季のクリッパーズはチームの二本柱のひとりカワイ・レナードが開幕から全休し、もうひとりのジョージも12月末から欠場が続いている。ほかの選手も故障や新型コロナウイルスの影響などで欠場が多く、その日によってローテーションも流動的。試合直前になって試合に出られない選手が判明することも頻繁だ。その中で試合に勝つために、いつものレギュラーシーズン以上に、違うやり方を探し、アシスタントコーチたちからもアイディアを出してもらい、何でも試しているのだと言う。

「いろいろと難しいことも多いけれど、今シーズンは違うやり方をしたり、やりながら変えていくことを学んだ」とルーHC。

「今シーズンのおかげで、自分は間違いなくよりいいコーチになれていると思う。毎晩、必死の思いで勝とうとしている。まるで、毎試合がプレイオフのようだ」。

そんなアイディアのひとつが、2月12日(日本時間13日)のダラス・マーベリックス戦で見せた、ルカ・ドンチッチ対策だった。試合最初から、センターのイビツァ・ズバッツにドンチッチをマークさせたのだ。

ドンチッチにセンターのズバッツをマークさせる奇策

一見、これは勝つための対策とは思えない。ズバッツはセンターとしては動ける選手だが、それにしても、ドンチッチにとっては餌食のようなもの。実際、2日前に同カードで対戦して51点をあげたときも、昨季プレイオフで対戦したときも、ドンチッチは勝負どころではスクリーンを使ってクリッパーズにスイッチさせ、ズバッツが自分をマークするように仕掛けていたのだ。そのズバッツがスイッチさせる前から自分をマークしていたのだから、ドンチッチは驚いたことだろう。

しかし、この試合ではこれが効いていた。

「ルカは(ズバッツにマークされて)、侮辱されたと受け止めていた」とルーHC。

そうやって1対1の戦いに意識を集中させることがルーHCの思惑だった。目の前に自分が求めているマッチアップがいるのだから、わざわざスクリーンを使う必要はない。しかし、その分、チームメイトたちは蚊帳の外になる。結果、ドンチッチは45点を取ったものの、僅差の試合に勝ったのはクリッパーズだった。

試合後のルーHCはしてやったりとばかりに、満足気な表情だった。ドンチッチに45点とられたことも計算内。

「90点取られても構わない。うちのチームはすばらしい仕事をした。第1クォーターで、ルカは苦労していた。センターに(最初から)マークされることには慣れていないからね。ルカには45点取られたけれど、1人で33本のシュートを打っている。他のマブズ選手は誰もリズムに乗れなかった。今夜のゲームプランは成功だ」。

この戦術は二度目には効かないかもしれないが、ルーHCならそれも承知の上のことだろう。クリッパーズとマブズの今レギュラーシーズンの対戦はこの試合が最後だったが、もしもまたクリッパーズとマブズがプレイオフで対戦したら、また違うアイディアを考えて試してくるに違いない。

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スポーツライター/バスケットボールライター
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