ウシク vs ジョシュア第2戦特集:モハメド・アリ、マイク・タイソン、レノックス・ルイス、ヘビー級ボクシングにおけるダイレクトリマッチの歴史的8試合

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Immediate heavyweight title rematches have produced some unforgettable drama

日本時間8月21日朝、アンソニー・ジョシュアは、オレクサンドル・ウシクを相手にWBAスーパー・IBF・WBOヘビー級タイトルの奪還に挑む。王座から陥落したヘビー級の元チャンピオンが直接再戦に挑んだリベンジ劇は、これまで様々な結果を生んできた。8つの歴史的なダイレクトリマッチをドム・ファレル(Dom Farrel)記者が紹介する。

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ボクシングヘビー級、ダイレクトリマッチの歴史

オレクサンドル・ウシク(ウクライナ)は現在のパウンドー・フォー・パウンド(強者番付)でトップにランクされるスーパースターだ。あるいはボクシング史上最も天賦の才能に恵まれたヘビー級ボクサーかもしれない。2021年9月の前回の戦いでは、ウシクはアンソニー・ジョシュア(英国)を完全に封じ込めた。ほかの試合を挟まずに行う再戦=「ダイレクトリマッチ」で、かつてない強敵に挑むジョシュアには厳しい戦いが予想される。

ジョシュアは新しいトレーナーとして、ノニト・ドネアやマイキー・ガルシアを指導した名伯楽ロバート・ガルシアを迎えた。来る8月20日(日本時間21日午前7:15頃)、サウジアラビアのジェッダにおいて、確固たる決心を秘めてこの大舞台に挑む。

一方の現王者ウシクにとっても容易な戦いではない。ジョシュアから奪ったばかりのWBAスーパー、IBF、そしてWBOの世界ヘビー級ベルトを守ることができるか。ボクシングの歴史のなかには、ほんのつかの間の戴冠で終わったヘビー級チャンピオンが数多くいるのだ。

ウシクvsジョシュアの再戦に合わせ、スポーティングニュースは、陥落したヘビー級チャンピオンが敗れた相手との「ダイレクトリマッチ」に挑んだ8つの歴史的な例を振り返ってみた。返り討ちにあったか、あるいはリベンジに成功したか、前チャンピオンたちの結末は様々だ。

【動画プレビュー】オレクサンドル・ウシク vs アンソニー・ジョシュアの再戦の行方を数字から紐解く

インゲマル・ヨハンソン vs. フロイド・パターソン(1960)

  • 連敗か、リベンジ成功か:リベンジ(パターソン)

フロイド・パターソン(米国)は、インゲマル・ヨハンソンとの3連戦の2戦目を制し、ヘビー級王座を奪還した初のボクサーとなった。1959年にニューヨーク州ヤンキー・スタジアムで行われた初戦では、絶対有利と報じられたパターソンだったが、スウェーデン人ボクサー、ヨハンソンに7回のダウンを奪われ、3ラウンドTKOの惨敗を喫した。

だが、両者の再戦は違う物語を生んだ。パターソンがヨハンソンを圧倒し、強烈な左フックで5ラウンドKO勝ちを収めたのだ。さらに両者は1961年に三度相まみえた。この試合も第1ラウンドからダウンの応酬となる激しい戦いになったが、第6ラウンドでついにパターソンがヨハンソンをキャンバスに沈めた。テンプルに叩き込まれた強烈なパンチは挑戦者の意識を奪い、ボクシング史上に残る3連戦(トリロジー)は完了した。

ソニー・リストン vs. フロイド・パターソン(1963)

  • 連敗か、リベンジ成功か:連敗(パターソン)

ヨハンソンとの3連戦の後、パターソンはイリノイ州コミスキー・パークで行われたソニー・リストン(米国)との初戦で僅か2分間しか立っていることができず、1ラウンドKOで敗れた。だが、ヨハンソンとの経験が、パターソンをこの強敵への再挑戦にかき立てたのかもしれない。

しかし、10か月後にネバダ州ラスベガス・コンベンションセンターで行われた再戦でも、パターソンはリストンにまたしても1ラウンドKO負けの屈辱を喫してしまった。返り討ちに成功したリストンであったが、次の防衛戦の相手は生意気な大口を叩く若い挑戦者に決まった。多くのボクシングファンはリストンの勝利は揺るぎないものと考えていた。

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モハメド・アリ vs. ソニー・リストン(1965)

  • 連敗か、リベンジ成功か:連敗(リストン)

今では誰もが知っている通り、当時カシアス・クレイ(米国)と呼ばれたこの若きボクサーは口先だけの挑戦者ではなかった。フロリダ州マイアミビーチ・コンベンションセンターで行われた戦いで、クレイは華麗なアウトボクシングでリストンを翻弄した。第6ラウンド終了後に、リストンは肩の怪我を訴え、イスから立ち上がることができなかった。

この戦いの後、新チャンピオンはイスラム教へ改宗したことを明らかにし、以後モハメド・アリと名乗ることになる。アメリカ国内におけるイスラム教組織「ネーション・オブ・イスラム」の指導者だったイライジャ・ムハンマド氏に名付けられたものだ。

リストンとアリとの再戦は1965年5月に実現した。アリがヘルニア手術を受けるために5か月遅れたこともあり、戦いは緊迫した雰囲気に包まれた。当初会場に予定されていたマサチューセッツ州ボストン・ガーデンはイベントから撤退し、代わりにメイン州ルイストン・シビックセンターに舞台を移した。双方のボクサーに暗殺予告があったとされている。

この再戦はヘビー級ボクシングの歴史で最も物議を醸した試合のひとつになった。第1ラウンド途中、リストンの左ジャブに合わせて、アリが右の短いパンチを放つと、挑戦者リストンはその一発でキャンバスに沈んだ。レフリーのジョー・ウォルコット氏がカウントを数えようとしたとき、アリはリストンを見下ろして仁王立ちとなり、「立って、戦え、この野郎」と叫んだ。リストンは意識を取り戻し、ウォルコット氏は試合続行を命じた。フラフラとなったリストンに対してアリはさらにパンチの雨を降らしたが、タイムキーパーのフランシス・マクドノー氏がレフリーのウォルコット氏に対し、リストンはすでにKOされていることを通達した。試合はそこで決着となり、会場はブーイングに包まれた。

レオン・スピンクス vs. モハメド・アリ (1978)

  • 連敗か、リベンジ成功か:リベンジ(アリ)

リストンとの戦いから13年後、流石のアリも衰えを隠せなかった。1978年2月のラスベガスで行われたレオン・スピンクス(米国)戦で、さえない判定負けを喫し、王座から陥落した。レオンは1976年のモントリオールオリンピック金メダリストではあったが、プロではまだルーキーのようなキャリアしかなかった。

7か月後、アリは再び自らを奮い立たせ、ルイジアナ州ニューオーリンズ・スーパードームで行われた再戦でフルマークの判定勝ちを収めた。これによりヘビー級ボクシングの歴史で初めて3回の王座返り咲きを果たしたチャンピオンとなった。

アリはここでリングから降りるべきだっただろう。しかし、この歴代最強王者はその後、ラリー・ホームズとトレバー・バービックに連敗を喫し、引退後は闘病生活に入ることになる。そのことはボクシングにおける健康管理という側面に汚点として残っている。

イベンダー・ホリフィールド vs. マイク・タイソン(1997)

  • 連敗か、リベンジ成功か:連敗(タイソン)

この1戦はおそらくヘビー級ボクシングの歴史で最も汚名にまみれた試合だったであろう。1996年、ネバダ州ラスベガス・MGMグランドで、イベンダー・ホリフィールドはマイク・タイソン(いずれも米国)から第6ラウンドと第10ラウンド終了間際にダウンを奪い、次のラウンドでTKO勝ちを収めた。試合後にタイソン陣営がホリフィールドにバッティングの反則があったことを訴え、7か月半後に同じ会場で実現した再戦はさらに大きな注目を集めることとなった。

3ラウンド終了間際、タイソンはクリンチの際にホリフィールドの右耳を噛み切るという暴挙に出た。レフリーのミルズ・レーン氏は試合を止め、ホリフィールドの首に流れた血を拭き取る時間を与えた。リングサイドのドクターがホリフィールドの試合続行を許可し、レーン氏はタイソンを2点減点とすることを選択した。ところが試合再開後すぐ、タイソンは再びホリフィールドに嚙みつき、試合はそこで終わった。レーン氏はホリフィールドの反則勝ちを宣告し、リング内は乱闘騒ぎとなった。

ハシーム・ラクマン vs. レノックス・ルイス(2001)

連敗か、リベンジ成功か:リベンジ(ルイス)

レノックス・ルイス(英国)が初めて敗れた相手への雪辱に成功し、ヘビー級タイトルを奪回した試合は、非常に奇妙な展開を辿った。オリバー・マッコール(米国)にTKO負けを喫した2年半後の再戦で、ルイスはチャンピオンに返り咲いた。戦意喪失したマッコーは試合中に泣き出し、試合を放棄してしまったのだ。ハシーム・ラクマン(米国)とルイスの連戦はそれとは段違いの熱戦となった。

初戦のルイスは明らかに調整不足だった。当時無名だった挑戦者を侮っていたのだろう。高地にあるヨハネスブルグ(南アフリカ)の薄い空気の中、ルイスは終始口を開けていた。そして右の一発を食らい、ノックアウトされてしまった。ラスベガスで行われた2戦目ではルイスは一変した。最初の3ラウンドで順調にポイントを重ね、第4ラウンドには強烈な1-2パンチで鮮烈なKO勝ちを収めた。

アンディ・ルイス・ジュニア vs. アンソニー・ジョシュア(2019)

  • 連敗か、リベンジ成功か:リベンジ(ジョシュア)

ヘビー級ボクシングの歴史の中で、ダイレクト・リマッチで世界チャンピオンの座を奪回したボクサーは4人しかいない。アンソニー・ジョシュア(英国)もそのひとりである。8月のウシクとの再戦に向けてジョシュア陣営が楽観的なのはそれが理由であることは明らかだ。

2019年6月にアンディ・ルイス・ジュニア(米国)は番狂わせでジョシュアを破った。ニューヨークで行われたその試合は英国出身であるジョシュアの米国デビュー戦であったうえ、それまで続けていた不敗記録も途絶えてしまった。不名誉な敗北でオーラを失ってしまったと思われたジョシュアは、マイナスイメージを払拭するため、どうしてもパターソン、アリ、そしてルイスに肩を並べる必要があった。

4度のダウンを奪われ、第7ラウンドにKOされるという惨敗を喫してから6か月後、サウジアラビアで行われた再戦で、ジョシュアは体重増のルイスを完全にコントロールするアウトボックスで封じ込め、王座返り咲きに成功した。

タイソン・フューリー vs. デオンテイ・ワイルダー(2021)

  • 連敗か、リベンジ成功か:連敗(ワイルダー)

タイソン・フューリー(英国)とデオンテイ・ワイルダー(米国)の第3戦はそれほど期待されたものではなかったことを忘れがちになる。2018年に両者は初めて対戦し、そのときはドラマチックかつ疑惑的な引き分けに終わった。ラスベガスで行われた第2戦では、フューリーが「銅の爆撃機」を鮮烈な7ラウンドTKOで破った。すると世間の注目はフューリーとジョシュアの王座統一戦に集まることになったが、米国の仲裁委員会はワイルダーの第3戦目が契約として未だ有効であると認めた。

そうして実現したダイレクトリマッチは予想をはるかに上回る、稀に見る激戦となった。第3ラウンドにフューリーがワイルダーからダウンと奪うと、続く第4ラウンドでは逆にワイルダーがフューリーから2度のダウンを奪った。激しいヘビー級同士の打ち合いを最終的に制したのはフューリーだった。第10ラウンド目に再びダウンを奪い、そして第11ラウンド目に11回KO勝ちを収めた。

原文: Oleksandr Usyk vs. Anthony Joshua 2: Do immediate boxing heavyweight rematches bring repeat or revenge?
翻訳:角谷剛
編集:スポーティングニュース日本版編集部

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Dom is the senior content producer for Sporting News UK.